2023年08月13日
ソウルに帰る(原題:Return to Seoul)
監督・脚本:ダビ・シュー
撮影:トーマス・ファベル
出演:パク・ジミン(フレディ)、グカ・ハン(テナ)、オ・グァンロク(フレディの父)、キム・ソニョン(フレディの叔母)
韓国で生まれ、赤ん坊のときに養子縁組でフランスの両親に育てられたフレディは、来る予定のなかった韓国に初めてやってきた。泊まったゲストハウスで働くテナはフランス語が堪能で、言葉のわからないフレディを親身にサポートする。韓国の記憶が何もなく、言葉にも文化にもなじめないフレディだったが、テナの協力で、実の両親を探し始める。
フレディを育ててくれた養親は穏やかな人のようですが、彼女は反骨精神たっぷりで、人と違うことをするのが楽しそうです。怒りも納めることはしないで、爆発させます。そばにいると「ちょっと勘弁して」となりそうだけれど、正直なだけなんでしょう。
初めは生みの親を探す気はなかったのに、父に会い、会わないという母の返事を長いこと待ち続けます。過激なのに、繊細な部分も持ち合わせているフレディを演じたパク・ジミンは、俳優ではなく彫刻やインスタレーションを作るアーティストで、監督が出会って出演を願ったというのに驚きです。演技臭いところは一片もなく、てっきり女優さんだと思っていました。
朝鮮戦争の休止後、米軍兵士と韓国女性の間に生まれた子どもたちは、父が外国人だと韓国籍が取れませんでした。国も貧しく子どものための福祉政策もなかったことから、ハーフの子どもたちは養子縁組をしてアメリカへ渡ったそうです。それをきっかけに海外と養子縁組させる民間機関(アメリカ人のホルト氏が創設したホルト児童福祉会)などが中心となり、ヨーロッパの国も受け入れ先に加わりました。
血縁を重視する韓国内での養子縁組は少なく、戦後も長い間多くの子どもが海外へ送り出されました。詳しく調査確認しなかったために、受け入れ先で虐待に遭ったという負の側面も少なからず明らかになっているようです。そこまででなくとも、成長した子どもたちがフレディのように、自分のアイデンティティに悩むことはあるでしょう。生みの親は手放した罪悪感を一生背負い、わが子として長く育てた両親は、生みの親を探したいと言われたらやはり寂しいだろうと、複雑な思いに駆られます。(白)
『冬の小鳥』『はちみつ色のユン』『ブルー・バイユー』など、韓国での養子縁組を描いた映画は、ドキュメンタリーやドラマも含めていくつか日本で公開されてきた。朝鮮戦争(1950~53年)後の1960年代~70年代に、アメリカやフランス、ベルギーなど欧米諸国に養子として渡った子供たちは20万人ぐらいいるという。この映画は現代に近いから、その後も韓国から海外へと養子縁組で渡る子供は多いのだろうか。
主人公フレディは韓国の女性ぽくなく、フランス育ちというのもあり、まるでフランスの女性のような振る舞い。実は私は1996年、中国の北京語学学院に短期留学したことがあるのだけど、同室になった人はフランス育ちの中国人だった。彼女も中国人なのに、振る舞い、行動、着ている服などがフランス人ぽかった。
この作品を観て、やはり人は育った国の文化や周りの行動などの影響を受けるのだなと思った。それでも、フレディはパサパサした性格かもしれないと思いつつ、父親と会って自分の韓国人としてのアイデンティティが目覚めたかもと思った。フレディの韓国文化との出会いや戸惑い、父親に会えるまでの心の変化が描かれる(暁)。
第23回東京フィルメックス 審査員特別賞を受賞
2022年/フランス・ドイツ・ベルギー・カンボジア・カタール合作/119分/G
配給:イーニッド・フィルム
(C)AURORA FILMS/VANDERTASTIC/FRAKAS PRODUCRIONS/2022
https://enidfilms.jp/returntoseoul
★2023年8月11日(金)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下にてロードショー中、ほか全国順次公開
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください