2023年08月06日
破壊の自然史 原題:The Natural History of Destruction
監督:セルゲイ・ロズニツァ
あらゆる人々を焼け焦がした大量破壊 第二次世界大戦末期、連合軍はイギリス空爆の報復として敵国ナチ・ ドイツへ「絨毯爆撃」を行った。連合軍の「戦略爆撃調査報告書」に よるとイギリス空軍だけで40万の爆撃機がドイツの131都市に100 万トンの爆弾を投下し、350 万軒の住居が破壊され、60 万人近くの 一般市民が犠牲となったとされる。技術革新と生産力の向上によって 増強された軍事力で罪のない一般市民を襲った人類史上最大規模の 大量破壊を描く。人間の想像を遥かに超えた圧倒的な破壊を前に想起 する⼼をへし折られた当時のドイツ⽂学者たちと、ナチ・ドイツの犯罪と敗戦国としての贖罪意 識によってこの空襲の罪と責任について戦後⻑い間公の場で議論することが出来なかった社会 について考察するドイツ⼈作家W.G.ゼーバルトの「空襲と⽂学」へのアンサー的作品。
セルゲイ・ロズニツァ コメント(『破壊の⾃然史』ディレクターズノートより抜粋)
戦争の映像や事実を知っていることと、なぜそのような事が起きたのかを理解することは 違います。そのことを理解するには時間がかかりますし、その出来事が起こった瞬間から ずいぶん時間が経ってから理解することもありますし、場合によってはまったく理解でき ないこともあります。 私たちはロシアによるウクライナへの侵略や残虐行為が続いている状況の中でこの映画を 観ることになります。しかし、私は、この映画を別の視点から捉えることができる時が来る と考えています。大量破壊兵器や地球規模の殺戮兵器の使用を可能にするこの文明をどう すれば良いのかという存在論的な問題に私たちはいつか直面するのです。他の人間を殺す ことが、政治的あるいは経済的目標を達成するための普遍的な手段であり続けているのは なぜなのか。私の映画は戦争の本質を描いていると信じています。
冒頭映し出されるのどかな田園風景。木陰でくつろぐ老人たちや、編み物をする女性。そして、都会では、カフェの外の席でおしゃべりを楽しむ人たち、教会のクリオン時計を見上げる人たち・・・ ナチスの旗があふれる町で普通の生活が営まれています。一転、不気味な音をたてて爆撃機が到来。破壊し尽される町。瓦礫となった町で、バケツリレーする人たち。消火にどれほどの効果があるのか・・・ 荷車に家財道具を乗せ避難する人たち。なけなしの荷物を持って裸足で歩いていく人も。
無差別攻撃が一瞬にして日常生活を壊し、多くの人を殺し、生き残った人々は路頭に迷う・・・ 本作で描き出されるのは、イギリスとドイツの空襲を受けた町。「ドイツに最後のとどめを!」「反撃を!」と叫ぶそれぞれの将軍。戦争に勝った国も、負けた国も、犠牲になるのは何の罪もない庶民。戦争の虚しさがずっしり。(咲)
セルゲイ・ロズニツァ監督の“アーカイヴァル・ドキュメンタリー”は、日本では2020年に『国葬』(2019)、『粛清裁判』(2018)、『アウステ ルリッツ』(2016)の3作品が初めて劇場公開され、これまで日本では専門家以外にはほとんど知られてなかったこの地域で起こったことを広めた。今回はロシアによるウクライナへの侵略が続いている中、<戦争/正義>というテーマで『破壊の自然史』と『キエフ裁判』の2作品が公開される。
『破壊の自然史』では、第2次世界大戦でのドイツというとユダヤ人へ虐殺を描いた作品が多い中、第2次世界大戦末期の連合軍によるドイツへの絨毯爆撃を記録したアーカイブ映像を使い、連合軍、イギリス軍による空爆を描く。この一連の空爆ではイギリス空軍だけで40万の爆撃機が131都市に100万tもの爆弾を投下し、60万人近くの一般市民が犠牲となったという。
最初の穏やかな市民生活が夜の爆撃のシーンへと変わり、その映像が続く。そして昼間の爆撃と崩れたたくさんのビルの映像。飛行船で撮影したのか、空から爆撃後の街を撮った映像も続く。そして市民の人たちのバケツリレーによるがれき処理光景?も出てくる。亡くなった方たちを探す家族の光景も映され、最後はどこかに向かう避難民の姿。延々と続く人々。たくさんの人が焼け出された映像に、ドイツでも日本と同じように爆撃被害があったと知った(暁)。
第75回カンヌ国際映画祭特別上映作品
2022年/ドイツ=オランダ=リトアニア製作/英語/105分/1.33 カラー・モノクロ/5.1ch
日本語字幕:渋谷哲也
配給:サニーフィルム
★2023年8月12日(土)よりシアター・イメージフォーラム、第七藝術劇場、京都シネマ 他全国順次公開
公開初日ティーチイン情報
8月12日(土)13:00からの『破壊の自然史』上映後
「戦争観を逆撫するロズニツァ」池田嘉郎(東京大学人文社会系教授)
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