2023年07月28日
シモーヌ フランスに最も愛された政治家(原題:Simone, le voyage du siecle)
監督・脚本:オリビエ・ダアン
撮影:マニュエル・ダコッセ
音楽:オルヴォン・ヤコブ
出演:エルザ・ジルベルスタイン(シモーヌ・ヴェイユ)、
フランス人に最も敬愛される女性政治家シモーヌ・ヴェイユ。子どもの頃から、よく学び、よく働いて自立した女性になることが大切と考えていた。母親の教えは彼女の芯となる。進学を目の前に、家族ともどもナチスに捕まって収容所に送られてしまった。父と兄は別の収容所へと別れ、母と姉と3人で支えあうが、母は帰国前に亡くなり。生き残ったのは姉2人とシモーヌだけだった。
過酷な体験は、政治を目指した彼女の血肉となり、結婚し子どもを持った後も政界で目覚ましい活躍をする。中でもカトリック人口の多いフランスで、かつ男性議員の多い国会で、初めて妊娠中絶法の成立に成功する。女性で初めて欧州議会議長に就任、女性や弱者のために戦い続けた。
シモーヌ・ヴェイユという方をこの映画で初めて知りました。男性のヤジや怒号に一歩も引かず、筋道たてて冷静に主張する彼女のなんとカッコいいこと!
ファッションにこだわりがあったということから、本作の中でも品よく、洗練された服装(衣装デザイン:ジジ・ルパージュ)で登場します。女性たちの旗手となる実行力と、威厳もありながら親しみやすさも感じるシモーヌを演じたエルザ・ジルベルスタイン。彼女の演技力に負うところが大きいと思いますが、圧倒的な存在感。実際にこういう政治家がもっともっと出てきてほしい。(白)
シモーヌ・ヴェイユの名前を知ったのは、2022年12月2日に日本で公開されたフランス映画『あのこと』を観たときのことでした。フランスで中絶が違法だった1960年代に、壮絶な思いで秘密裏に中絶をした女性の物語でした。いったいいつフランスで中絶が合法になったのかを調べたところ、1974年のジスカール・デスタン大統領時代に保健相になったユダヤ系の女性政治家シモーヌ・ヴェイユの奔走によって、1975年に中絶が合法化されたと知りました。
この度、本作を観て、シモーヌの活躍は中絶合法化だけでなかったことがわかりました。
1979年には女性初の欧州議会議長に選出され、大半が男性である理事たちの猛反対の中で、「女性の権利委員会」を設置しています。女性だけではなく、移民やエイズ患者、刑務所の囚人など弱き者たちの人権のためにも闘ったシモーヌ。
ユダヤである為に、ナチスが台頭した時代には不幸な目にあいましたが、一家はフランス文化を愛しフランスに溶け込んだ同化ユダヤ人で、父親はフランスは私たちを裏切らないと信じていました。ナチスが、ユダヤの血が流れているというだけで、信条は無視してユダヤを抹殺しようとしたことがよくわかるエピソードでした。
過去から学び、未来に繋ぐことを目指したシモーヌ。まさに政治家の鏡です。(咲)
シモーヌ・ヴェイユ(政治家 1927年7月13日 - 2017年6月30日)という名前を1970年代に聞いたかもしれないけど覚えていない。しかし、同年代の友人は高校時代の1970年頃、友だち(男子)からシモーヌ・ヴェイユのことを聞き、彼女のことを書いた本を読んだと言っていた。意識が高かった人は当時から知っていたようだ。ちなみに、今回、シモーヌ・ヴェイユ(1909年2月3日 - 1943年8月24日)という哲学者の方もいたということも知った。しかし、私にとってはフランスの女性解放の先駆者といえばボーボワールくらいしか知らなかった。彼女はシモーヌ・ド・ボーヴォワールということで、フランスでは3人のシモーヌが活躍していたんですね。
この映画の冒頭、1974年のフランスの議会、中絶法が審議された場でシモーヌの「喜んで中絶する女性はいません。中絶が悲劇だと確信するには女性に聞けば充分です」という名演説。大多数の男性議員の反対の中「中絶法」が可決され、後に彼女の名前を冠してヴェイユ法と呼ばれるようになったと知った。
アメリカにはルース・ベイダー・ギンズバーグさんがいたように、フランスにもシモーヌ・ヴェイユという方がいたのですね。日本で言えば市川房枝さんですかね。いろいろな国で、こういう先駆的な女性たちの不屈の闘いがあって、現在の女性たちの地位があるということを忘れてはならないと思う。それでも女性たちの状況はまだ不安定。
日本では人工妊娠中絶手術は、どんな条件でも実施できるわけではありません。そして、中絶に「配偶者」同意が必要なのは、日本を含めて11か国&地域のみ。産むか産まないかを決める権利は女性の基本的人権であるという「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関するに関する健康と権利)」が、1994年の国連国際人口開発会議で提唱されているのに、いまだに女性本人が自分で判断し、決断できるようにはなっていないというのが驚き。
中絶手術の考え方は国によって違うけど、アメリカでは州によっても異なるというし、人工妊娠中絶が憲法上認められていたのに、中絶を全面禁止する州が出てきて、次期大統領選の需要な争点にもなりそうというニュースを聞くと、本当に歴史が逆行していると感じる。フランスではそういうことはないのだろうか(暁)。
2021年/フランス/カラー/シネスコ/140分
配給:アットエンタテインメント
(C)2020 - MARVELOUS PRODUCTIONS - FRANCE 2 CINEMA - FRANCE 3 CINEMA
https://simonemoviejp.com/
★2023年7月28日(金)より全国順次公開中
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