2023年07月16日

ナチスに仕掛けたチェスゲーム  原題:Schachnovelle

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© 2021 WALKER+WORM FILM, DOR FILM, STUDIOCANAL FILM, ARD DEGETO, BAYERISCHER RUNDFUNK

監督:フィリップ・シュテルツェル(『ゲーテの恋~君に捧ぐ「若きウェルテルの悩み」~』)
原案:シュテファン・ツヴァイク(「チェスの話」)
出演:オリヴァー・マスッチ アルブレヒト・シュッへ ビルギット・ミニヒマイアー

ロッテルダム港を出発し、アメリカへと向かう豪華客船。ヨーゼフ・パルトークは久しぶりに再会した妻と船に乗り込む。目も虚ろですっかりやつれ果てたヨーゼフを、妻は「すべて元通りになるわ」と慰める。かつてウィーンで公証人を務めていたヨーゼフは、1938年、ヒトラー率いるドイツがオーストリアを併合した日にナチスに連行され、彼が管理する貴族の預金番号を教えろと迫られた。それを拒絶したため、ヨーゼフはホテルに監禁され、ようやく解放されたのだ。
船内ではチェスの大会が開かれ、世界王者が船の乗客全員と戦っていた。ヨーゼフは、負けが確定していた男にアドバイスし、引き分けまで持ち込む。その男は船のオーナーだった。ヨーゼフはオーナーから王者との一騎打ちを依頼され引き受けるが、実は、駒に触れるのは初めてだった。チェスに強いのには悲しい理由があった。監禁中、書物を所望するも叶わず、やっとの思いで手にしたのがチェスのルールブックだった。白熱の試合とともに衝撃の真実が明かされる・・・

原作はオーストリアの作家、シュテファン・ツヴァイクの「チェスの話」。ザルツブルクでユダヤ人実業家の裕福な家庭で育ったツヴァイクは、1933年にヒトラーがドイツの首相に就任し、オーストリアにも反ユダヤ主義が広まったことから、1934年イギリスへ亡命。その後、ブラジルとアメリカを転々とし、1942年にブラジルのペトロポリスで本作を書いた直後に妻と共に自殺しています。

ナチスがオーストリアに侵攻する直前のウィーンの街の様子を描いた場面が圧巻。
ヨーゼフと妻アンナの乗る車が、道路を埋め尽くしたドイツ支持者の市民たちに阻まれます。友人から危機が迫っていることを告げられても楽観視していたヨーゼフは、ようやく事態を案じて、妻を先に駅に逃がします。自身は事務所に戻って重要書類を焼却。その直後、ナチスに捕まってしまいます。
平穏に暮らしていると、それが何かの事情で崩されることは予期しないものです。今、世界では、外国勢力の侵攻や、国内の政変などで、これまでの暮らしをかき乱される人たちが後を絶ちません。住み慣れた地を離れなければならないのは、ほんとにつらいことです。本作を観ていて、そんなことに思いが至りました。
それにしても、チェスの手をルールブックをつぶさに読んで覚えるとは、すごい記憶力! (咲)


2021年/ドイツ/ドイツ語/112分/カラー/5.1ch/シネマスコープ
字幕翻訳:川岸史
配給:キノフィルムズ 
公式サイト:https://royalgame-movie.jp/
★2023年7月21日(金)より、シネマート新宿ほか全国公開



posted by sakiko at 18:13| Comment(0) | ドイツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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