監督・脚本:セバスティアン・マイゼ
共同脚本:トーマス・ライダー
撮影監督:クリステル・フルニエ(『水の中のつぼみ』『トムボーイ』『ガールフッド』)
編集:ジョアナ・スクリンツィ
音楽:ニルス・ペッター・モルヴェル、ペーター・ブロッツマン
出演:フランツ・ロゴフスキ(『希望の灯り』『未来を乗り換えた男』)
ゲオルク・フリードリヒ、アントン・フォン・ルケ、トーマス・プレンほか
第二次世界大戦後のドイツ。男性の同性愛を禁じた刑法175条の下、ハンスは自身の性的指向を理由に繰り返し投獄される。同房の服役囚ヴィクトールは彼を嫌悪し遠ざけようとするが、腕に彫られた番号から、ハンスがナチスの強制収容所から直接刑務所に送られたことを知る。己を曲げず何度も懲罰房に入れられる「頑固者」ハンスと、長期の服役によって刑務所内での振る舞いを熟知しているヴィクトール。反発から始まった二人の関係は、長い年月を経て互いを尊重する絆へと変わっていく 。
20余年にもわたって愛する自由を求め続けたハンスの物語。ナチスが各地に作った収容所には政治犯、ユダヤ人、ロマ、障碍者、さらに同性愛者も送られていました。この2時間足らずの中に終戦後、保守派が同性愛嫌悪を助長した60年代、社会が変化していき175条が撤廃される90年代の社会が刑務所を通して描かれます。刑務所から出られず過酷な日々を送るハンスですが、ヴィクトールとの交流が親しいものになっていくことで、観客も少しホッとします。
「憲法は国民を縛るものではなく、権力を持つ人=為政者を縛るもの」と聞いたのは「憲法くん」でした。理不尽な法律がまかり通っているとき、それで誰が得をするのか考えなくては。差別の意識は社会にも個人にも根強く浸透しているように思います。まずは自分の内側を覗いてみましょう。覗いてみます。(白)
ドイツ刑法175条(1871~1994)は1871年に制定され、ナチスが台頭してから厳罰化、戦後もそのまま東西ドイツで引き継がれていたのだそうです。西ドイツでは1969年に21歳以上の男性同性愛は非犯罪化され、1994年にようやく撤廃された。約120年間に14万もの人が処罰されたといわれる。
※刑法175条は男性のみを対象としており、女性同性愛はその存在さえ否定されたことから違法と明記されていなかった。
旧東ドイツの刑務所跡で撮影された本作。同性愛者というだけで投獄された人たちの無念な思いがずっしり伝わってきました。1958年には、東ドイツで刑法改正により175条が事実上無効になり、映画の中で、「東ドイツに逃げよう。収監されない」という言葉が出てきます。東から西に逃げたい人の多かった時代にです。
映画のラスト、Marcel Mouloudjiの歌う「L'Amour, l'Amour, l'Amour」が、のびのびと響き、自由に愛せる喜びを感じさせてくれました。
一方で、今でもチェチェン共和国やイランなど、同性愛が罪とされる国があることに、理不尽な思いが募りました。(咲)
2021年カンヌ国際映画祭ある視点部⾨審査員賞受賞
2022年アカデミー賞国際⻑編映画賞オーストリア代表作品。
2021年/オーストリア、ドイツ/116分/1:1.85/カラー/R15+
配給:Bunkamura Subsidized by German Films
©2021FreibeuterFilm•Rohfilm Productions
https://greatfreedom.jp/
2023年7月7日(金)よりBunkamuraル・シネマ渋谷宮下ほか全国順次公開