監督:アリス・ディオップ
出演:カイジ・カガメ、ガスラジー・マランダ、ロバート・カンタレラ
セネガル系フランス人の若き女性作家ラマ。次の本のリサーチのため、フランス北部の町サントメールに赴き、ある裁判を傍聴する。被告は、生後15ヶ月の娘の殺人罪に問われた女性ロランス・コリー。セネガルで生まれ、フランスに留学し、完璧な美しいフランス語を話す。「娘を海辺に置き去りにしたのは、人生をシンプルにするため」と語り、さらに、「叔母から呪術をかけられた」と主張する。娘の父親は30歳以上も年の離れた白人男性リュック・デュモンテ。ロランスは、彼が自分を誰にも紹介せず、自分と子供を否定したと批難する。一方、デュモンテは「年寄りとの関係を恥じていると思って紹介しなかった」という。二人の主張は食い違う。
この日は閉廷になり、傍聴席にいたもう一人の黒人女性がラマに話しかけてきた。ロランスの母親だった。その後、ラマはロランスの母から「妊娠何か月?」と聞かれる。ラマは、一緒に暮らす彼にも、まだ妊娠したことを告げていなかった・・・
裁判官に「なぜ娘を殺した?」と問われ、「Je ne sais pas.(ジュヌセパ わかりません)」と、表情も変えずに答えるロランス。逆に、「理由を裁判で教えてほしい」といいます。
ロランスが自分のことを語る中で、小さい時から、母親からウォロフ語(セネガルの彼女たちの民族の言葉)で話すことを禁じられ、フランス語もセネガル訛りでないフランス語を心がけるように躾けられたとありました。そうしたことが、人間形成に何か影響があったのかも知れないと感じさせられました。
一方、裁判を傍聴していたラマは、「私は母親になれるの?」という思いにかられます。
本作は、セネガル系フランス人女性であるアリス・ディオップ監督が、2016年に傍聴した裁判をもとにしたもの。監督自身、混血児の母親で、当時、傍聴しにいくことを誰にもいえなかったとのこと。けれども、これは映画になるのではとプロデューサーたちには話したそうです。
実際の裁判記録をセリフに使用するという斬新な演出。撮影は、実際の法廷のひとつ隣の部屋に法廷のセットを作って撮影。緊張感溢れる裁判の場で、それぞれの立場の人の思いが細やかに描かれています。 かつてフランスの植民地であったセネガルの人々の立ち位置も考えさせられる作品でした。(咲)
◆アリス・ディオップ監督来日! 3 days トークイベント日程

7/14(fri.)18:30〜 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
『サントメール ある被告』アフタートーク
ゲスト:小野正嗣(作家) 進行:矢田部吉彦(元東京国際映画祭プログラミング・ディレクター)
7/15(sat.)17:00〜 東京日仏学院 エスパス・イマージュ
『私たち』アフタートーク
7/16(sun.)18:30〜 Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下
『サントメール ある被告』アフタートーク
進行:矢田部吉彦(元東京国際映画祭プログラミング・ディレクター)
ヴェネチア映画祭銀獅子賞(審査員大賞)&新人監督賞
2023年度アカデミー賞®国際長編映画部門 フランス代表
2022年/フランス/フランス語/123分/カラー/G
字幕:岩辺いずみ、字幕監修:金塚彩乃
配給:トランスフォーマー
公式サイト:https://www.transformer.co.jp/m/saintomer/
★2023年7月14日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開