2023年06月29日
キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(原題:Carol of the Bells)
監督:オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ
脚本:クセニア・ザスタフスカ
撮影:エフゲニー・キレイ
音楽:ホセイン・ミルザゴリ
美術:ブラドレン・オドゥデンコ
プロデューサー:アーテム・コリウバイエフ、タラス・ボサック、マクシム・レスチャンカ
キャスト:
ソフィア・ミコライウナ(ウクライナ人母親) ヤナ・コロリョーヴァ
ミハイロ・ミコライウナ(ウクライナ人父親) アンドリー・モストレーンコ
ヤロスラワ・ミコライウナ(ウクライナ人子ども) ポリナ・グロモヴァ
ワンダ・カリノフスカ(ポーランド人母親) ヨアンナ・オポズダ
ヴァツワフ・カリノフスカ(ポーランド人父親) ミロスワフ・ハニシェフスキ
テレサ・カリノフスカ(ポーランド人子ども) フルィスティーナ・オレヒヴナ・ウシーツカ
ベルタ・ハーシュコウィッツ(ユダヤ人母親) アラ・ビニェイエバ
イサク・ハーシュコウィッツ(ユダヤ人父親) トマシュ・ソブチャク
ディナ・ハーシュコウィッツ(ユダヤ人子ども) エウゲニア・ソロドウニク
1939年1月、ポーランドのスタニスワヴフにあるユダヤ人が住む母屋に、店子としてウクライナ人とポーランド人の家族が引越ししてくる。ウクライナ人の娘ヤロスラワは、音楽家の両親の影響で歌が得意。特にウクライナの民謡「シェドリック」=「キャロル・オブ・ザ・ベル」は、歌うと幸せが訪れると信じ、大事な場面でその歌を披露している。
第2次大戦開戦後、スタニスワヴフはソ連の侵攻、ナチス・ドイツによる侵攻が続き、再びソ連によって占領される。ポーランド人とユダヤ人の両親は迫害によって連れ出されてしまった。とっさの機転によって子どもたちだけは、難を逃れることができた。ウクライナ人の母であるソフィアは、ユダヤ人の娘ディナ、ポーランド人の娘テレサ、自分の娘ヤロスラワの3人を必死に守り通していく。
戦火に揺れ続けたポーランドのスタニスワヴフ(現ウクライナ、イヴァーノ=フランキーウシク)での3家族の運命を描いています。今の世情と重なってしまい、次々と訪れる不幸に胸が痛みました。この悲劇の舞台となる家ではそれぞれルーツの違う3家族が住んでいますが、表面上と本音では違います。けれども、抗いようもなく連行されるとき、親たちはわが子だけでも、と残るソフィアに目で訴えて託していきます。心情いかばかり。
頼みの夫も連れ去られ、みんなの命の重さがソフィア一人の肩にずっしりとかかってきます。食料が不足する中苦労して子供たちを育てねばならず、投げ出すことはできません。後から住人となるドイツの軍人家族を「親を殺したドイツ人」と、敵視する子どもたち。国家間の争いと個人は別、ましてや子どもには責任はないとかばうソフィア。誰もが言えることではありません。
自分の身に起こったら、と想像するだけでも辛いです。が、今も戦争が起こってしまったら国の東西を問わず、文化どころか人の命も尊厳も踏みにじられて行きます。映画のように。他人事ではないと気づかなくちゃ。
みんなが一堂に会したのは、最初で最後のクリスマスの食事会。子どもたちが歌うシーンが、後の悲劇を予感させて悲しくも美しいです。(白)
物語の舞台が、当時ポーランドのスタニスワヴフ、今はウクライナのイヴァーノ=フランキーウシクと掲げられ、地続きの町が時の権力を持った国に翻弄されてきたことを、まず憂いました。
ウクライナ人のお父さんミハイロは、ウクライナ民族主義者組織(OUN)の一員で、独立のために戦っていた時にけがをして足を引きずっています。ソ連に支配されていたキーウに住めなくなり引っ越してきたのですが、ドイツが侵攻してきて、ドイツ人将校の前で「リリー・マルレーン」を弾き語りする姿が悲しげです。
ソ連が勝ち、ソ連兵の取り調べに、ソフィアが「ウクライナ民謡を教えていた」と答えると「そんなものがあると思うか」と恫喝されます。
本作の中で何度も歌われる「シェドリック」=「キャロル・オブ・ザ・ベル」は、「ウクライナ人、ウクライナ語、ウクライナ文化が存在している」という何百年前から伝わる民謡。
2022年2月のロシア侵攻直後に、ロシア風の呼び方のキエフでなくウクライナ風にキーウと表記してほしいとの願いにも、ウクライナ独自の言語や文化を大切にしたい思いを切に感じたものです。
一方で、本作では、ウクライナ、ポーランド、ユダヤの少女たちが、一緒に暮らし、お互いの宗教や文化を分かち合う姿も描かれていて、それぞれの文化を敬いながら共存することの大切さも教えてくれます。
この哀しくも美しい物語を紡いだのは、ウクライナの女性監督オレシャ・モルグネツ=イサイェンコさん。1984年生まれ。本作が長編劇映画2作目。
脚本家のクセニア・ザスタフスカさんのお祖母さんが第2次大戦中に体験したことが数多く盛り込まれているとのこと。実際、お祖母さんは、ポーランド人とユダヤ人の家族をドイツ軍から守っていたそうです。ユダヤ人を匿っただけで罪になった時代。
ソフィアが、ユダヤ人だけでなく、弾圧した側のナチス・ドイツの子どもも守ろうとした姿を、戦争をやめない権力者たちに観てほしいものです。(咲)
2021/ウクライナ・ポーランド/ウクライナ語/シネマスコープ/122分
配給: 彩プロ 後援:ウクライナ大使館
©︎MINISTRY OF CULTURE AND INFORMATION POLICY OF UKRAINE, 2020 – STEWOPOL SP.Z.O.O., 2020
https://carolofthebells.ayapro.ne.jp/
★2023年7月7日(金)新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
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