2023年06月11日

世界が引き裂かれる時 KLONDIKE   原題:KLONDIKE

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監督・脚本:マリナ・エル・ゴルバチ
撮影:スヴャトスラフ・ブラコフスキー
音楽:ズヴィアド・ムゲブリー
出演:オクサナ・チャルカシナ、セルゲイ・シャドリン、オレグ・シチェルビナ

ロシア国境近く、ウクライナ東部のドネツク州グラボベ村。
2014年7月17日。明け方、妊娠中のイルカと夫トリクの住む家が、親ロシア派分離主義勢力に誤射され、壁に大きな穴があいてしまう。二人はすぐに壁の穴を塞ごうとするが、目の前で航空機撃墜事故が起こる。不穏な状況に、トリクは身重のイルカに安全なところに逃げようというが、イルカは壁の穴をなんとか塞ぎたい。イルカの弟ヤリクが、町から車でやってきて、冬服とパスポートを持って車に乗るよう促す。ヤリクは反ロシア派だ。トリクの部屋で親ロシア派の制服を見つけ、不信感を爆発させる。そんな中、予定日迄まだ2か月あるのにイルカは産気づく・・・

ロシア側の武装勢力に占領された村で、夫トリクは決して親ロシア派ではないけれど、自身と家族を守るために仕方なく親ロシア派を装います。弟ヤリクは、そんな日和見主義も許せず、わざとウクライナの音楽を大きな音でかけます。そんな対立の中で、ただただ我が家と生まれてくる子を必死になって守ろうとするイルカ。それは、主義主張など関係なく、人間の本能からの行動でしょう。

本作を紡いだのは、ウクライナ出身の女性、マリナ・エル・ゴルバチ監督。
2014年7月のマレーシア航空 17 便襲撃に端を発するドンパス戦争は、ロシアのプロパガンダによりウクライナ国内の紛争だと報道されてきました。2016 年、ゴルバチ監督は、それがロシアによる侵略行為であることを忘れ去られないようにとの思いで脚本を書き始めました。撮影を開始したのは 2020 年の夏のことです。
2022 年 2 月 24 日にロシアがウクライナに侵攻し、いまだに戦争状態が続いていますが、今のこの戦争は2022年に始まったものでなく、2014年3月のクリミア不法併合、そして2014年7月のドンパスでの出来事から続いていたことを思い起こさせてくれる映画です。

ゴルバチ監督には、夫であるトルコ人のメフメット・バハドゥル・エル監督との共同監督作品『黒犬、吠える』(2009年/トルコ)が、アジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映された折に取材しています。
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マリナ・ゴルバチ監督(左)、メフメット・バハドゥル・エル監督(右)

二人の共同監督作品『ラブ・ミー』(2013年/ウクライナ・トルコ)は、2014年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で上映され、2022年の映画祭でもチャリティ上映「ウクライナに寄せて」として再上映されています。
トルコとウクライナが出会う『ラブ・ミー』(咲) (2014年07月23日)
トルコの男性とウクライナの女性の一夜を描いたコメディタッチの物語で、思えば平和なウクライナを舞台にした映画でした。 (咲)



原題『KLONDIKE』に込めた思い
ドンバスは、石炭採掘や鉄鋼など豊かな工業地帯。ロシアからヨーロッパへのガスが通る戦略的な場所であると同時に、多くの旧ソ連の指導者の出身地。そのドンバスと、19 世紀にゴールドラッシュが発生したカナダのクロンダイク川を重ね合わせ、土地を力尽くで奪い、手に入れるというロシアの行為は、時代に逆行する、古い時代に後退する行為だと言う思いで付けたタイトル。

2022/ウクライナ・トルコ/ウクライナ語・ロシア語・チェチェン語・オランダ語/100分/G/カラー/DCP/ワイドスクリーン/5.1ch
日本語字幕:岩辺いずみ
配給:アンプラグド
公式サイト:https://unpfilm.com/sekaiga
★2023年6 月 17 日(土)より シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開



posted by sakiko at 14:22| Comment(0) | ウクライナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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