2023年05月14日
縁路はるばる(原題:緣路山旮旯 英題:Far Far Away)
監督・脚本:アモス・ウィー
出演:出演:カーキ・サム(ハウ)、クリスタル・チョン(ファファ)、シシリア・ソー(エイリー)、レイチェル・リョン(ミーナ)、ハンナ・チャン(リサ)、ジェニファー・ユー(メラニー)
アプリの開発をしているハウは、同僚だった彼女と1ヶ月で別れてしまったが、その原因がわからずにいる。見た目は平凡で、自分から誘えない内気な性格のため、友人たちに世話を焼かれている始末。次々と5人の女性に出会ったが、なぜかみんな町中から離れた辺鄙なところに住んでいた。気のいいハウは、彼女たちを遠い家まで送っていく。
林立する高層ビルのイメージが強い香港ですが、交通機関を乗り継いだ先には驚くほどの自然の風景が広がっています。香港国際空港や香港ディズニーランドがあるのは、ランタオ島。ほかに大小260余りの島があります。
この映画の中に登場する女性たちは、家賃の高い都会から離れて郊外へ移ったり、親と同居だったりと理由はさまざま。ほんとうに端っこばかりに住んでいて、行ったことのない地名ばかりでした。あ、映画の舞台になったところも出てきましたので、香港映画を観続けてきた人は耳に止まるはず。ハウが開発したアプリがいちいち到着時間や、近辺の情報などを告げてくれるのがおかしいです。
ハウや彼女たちはアラサーで、仕事や結婚や人生を考える年頃。ハウが学生時代から憧れていたマドンナもいて、眼鏡で気の弱そうなところが「のび太君」に似ているハウが思いを告げられるのか、先が気になりますよ~。タイトルは「えんろ」と読み、もちろん「遠路はるばる」のもじりで、ハウと彼女たちの縁を結ぶ道筋でもあるわけです。ハウを演じたカーキ・サムは10代でドキュメンタリーを監督し、話題となった人だとか。俳優もすれば脚本も書き、プロデューサーもと多才です。(白)
2022年3月の第17回大阪アジアン映画祭の特集企画《Special Focus on Hong Kong 2022》で、『僻地へと向かう』のタイトルで海外初上映され、その後、東京外国語大学TUFS Cinemaで『縁路はるばる』のタイトルで、2023年1月9日に上映されました。2か月以上前の10月19日頃に告知され、250人の定員に申し込みが殺到し、一旦、募集フォームがクローズに。その後、500席フルに入れることにして再募集。なんとか申し込みできて、観ることができました。上映後には、東京外国語大学 倉田明子准教授の司会進行で、小栗宏太さん(東京外国語大学博士後期課程)が「香港ローカル映画の現在」のテーマで解説。香港では、2022年8月に公開され、本格的な映画俳優が出ていないにもかかわらず、異例の大ヒット。香港のローカルの要素が満載で、デートカルチャーを扱っていること、社会の変動を比喩的に描いていることなどが香港の人たちの心を掴んだのだろうとのこと。
アプリで目的地を入れて検索するときに、「鉄道を除外」するのは、デモの時、鉄道会社が警察に協力した節があることが背景にあるのではと。暗いニュースが多い香港で、あえて明るく描きながらも現実離れしないことにも気を使った内容。検閲が厳しく、制約のある中で、香港のローカル文化へのオマージュを込めて作られ、挿入歌の歌詞も物語とリンクしていることに言及されました。
この後、台北にいるアモス・ウィー監督とリモートで繋ぎ、リム・カーワイ氏との対談が行われました。原題『緣路山旮旯』は、広東語にこだわったタイトルで、日本にない漢字を使っていますが、台湾の人には読めるとのこと。最後に出てくる長州島は、監督自身が住んでいて、都会に行くのが大変だと実感している場所。
会場から、女性たちのキャラクターについて質問があり、すべてモデルになる知り合いがいて、その人たちのキャラを混ぜて作り上げているそうです。最初、7人の女性たちを考えていたけれど、7か所の僻地は多すぎると5か所にしたとのこと。
熱気溢れた会場で観た本作、モテそうにないハウが次々に美女と交際。送っていく先が、どの彼女の住む場所も僻地で、香港の郊外も大好きな私には、懐かしい場所もたくさん出てきて嬉しい1作でした。
最初の会社の同僚エイリーの家は、沙頭角という中国との国境近くの「辺境禁区」なので、さすがに行ったことはありませんが、そのすぐ近くの粉嶺(ファンリン)や、二人目の29歳のファファの住む夕日で有名な下白泥のすぐそばの流浮山(ラウファンサン)には、初めて香港に行った1979年に、当時勤めていた会社の香港支社の支社長に車で連れていってもらいました。国境の向こうに見える深圳には、まだ何もなかった時代です。
3番目のミーナの住むランタオ島の大澳は、水路沿いに家のあるひなびた町。ランタオ島に空港が出来て、今は船に乗らなくても行けるようになりましたが、それでも大澳は辺鄙な場所。ウォン・カーウァイ監督の『いますぐ抱きしめたい』(1988年)に出てきて、これは行ってみたい!と、まだ空港が出来る前に船とバスを乗り継いで行ったことがあります。その後、オダギリー・ジョー主演の『宵闇真珠』(2017年、監督:ジェニー・シュン クリストファー・ドイル)は全編大澳で撮影されています。
ハウが茶果嶺の祖父母のところで過ごした高校時代、皆のマドンナだったリサが住む梅子林(ライチラム)は、競馬場のある沙田からそれほど遠くないのに、山を越えていかなくてはならないところ。
そして、5人目のメラニーが住むのは、長州島からさらに船で行かなくてはならない橙碧邨(チャンビッチュン)というところ。1980年代に西洋人の金持ちがたくさん住んでいて、香港島の中環(セントラル)から直通フェリーがあったのに、それがなくなって、皆引っ越してしまってさびれた場所。地名は忘れていましたが、そういう場所があったのを聞いたことがありました。饅頭祭で有名な長州島には、一度だけ行ったことがありますが、小さな島でのどかなところでした。
かつて、香港の人たちと宴会をした時に、昼間、元朗近くの屏山に行ってきたと言ったら、「そんな遠く行ったことがない」と皆に言われたのを思い出しました。私にしてみれば、香港の中心部からバスや軽便鉄道で1時間もあれば行けるので、遠いと思えないのですが、やはり僻地のイメージなのですね。
この映画に出てきた場所も、どこも2時間以内で行けるところ。香港は、交通機関もいろいろあって面白いし、客家の囲い家の名残や、自然豊かな場所もあって、ほんとにワンダーランド。久しぶりに香港に行きたくなりました。(咲)
2021年/香港/カラー/シネスコ/96分/5.1ch/映倫G
配給:活弁シネマ倶楽部
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★2023年5月19日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
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