2023年04月30日

帰れない山    原題:Le Otto Montagne

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© 2022 WILDSIDE S.R.L. – RUFUS BV – MENUETTO BV –PYRAMIDE PRODUCTIONS SAS – VISION DISTRIBUTION S.P.A.


監督・脚本:フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン(『ビューティフル・ボーイ』)&シャルロッテ・ファンデルメールシュ
原作:「帰れない山」著:パオロ・コニェッティ 翻訳:関口英子(新潮クレスト・ブックス)
撮影:ルーベン・インペンス(『TITANE/チタン』)
出演:ルカ・マリネッリ(『マーティン・エデン』)、アレッサンドロ・ボルギ(『ザ・プレイス 運命の交差点』)、フィリッポ・ティーミ(『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』)、エレナ・リエッティ(『3つの鍵』)

1984年、北イタリア、モンテ・ローザ山麓のグラーノ村。もうすぐ12歳になる少年ピエトロは、ひと夏を両親がこの村で借りた家で過ごした。トリノの工場でエンジニアをしている父ジョヴァンニが来た折に、3010mの山に初めて一緒に登る。村に住むたったひとりの子どもであるブルーノと出会う。同い年とわかり、すっかり仲良くなり一緒に野山を駆け巡る。翌年、ブルーノも誘って父と氷河に行く。夏を村で過ごすことが数年続き、父がブルーノを支援してトリノで学校に行かせようと提案したところ、出稼ぎに行っていたブルーノの父が彼も出稼ぎに連れていってしまう。思春期を迎え、何かと父に反抗するピエトロ。夏に父から山登りに誘われても行かなくなる。せめて大学は卒業しろという父の言葉も聞かず、親とは疎遠になる。小説家になることを夢見ながらレストランで働く31歳のピエトロのもとに、父が急逝したとの知らせが届く。ピエトロは15年ぶりに村を訪れブルーノと再会する。父が山に家を建ててほしいとブルーノに頼んでいたことを聞かされる。ピエトロが村に行かなくなった後も、父はブルーノと一緒によく山に登っていたことも知る・・・

ピエトロは自分が遠ざけていた父と、ブルーノが親しくしていたと知り、取り返しのつかないことをしてしまったことに気づきます。時間を取り戻そうとするかのように、父の願った山の家をブルーノと二人で完成させます。ブルーノが酪農家として村に腰を据えて仕事をしていることにも刺激を受け、ピエトロは自分の道を探すべくネパールに旅立ちます。
ネパールで、ブルーノは「8つの山」の話を聞かされます。世界の中心には最も高い山、須弥山(スメール山、しゅみせん)があって、その周りは海と8つの山に囲まれていて、8つの山すべてに登った者と、須弥山に登った者、どちらがより多くのことを学んだかという古代インドの世界観。村に帰って、ブルーノにその話をすると、ブルーノは自分は須弥山に登った者だといいます。ピエトロは、いつまでも周りを彷徨うタイプかもしれません。
モンテ・ローザ山もヒマラヤも、どちらも心が洗われるような素晴らしい景観。ピエトロの父ジョヴァンニのように山に心の安寧を感じる人が多いのもわかるような気がします。(眺めるのは好きですが、登るのは苦手な私!)

監督のフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲンとシャルロッテ・ファンデルメールシュは、共にベルギー生まれのご夫婦。原作に惚れ込み、映画化するのにあたり、まず、イタリア語を学ぶことから始めたそうです。
描かれているテーマは、両親とのこと、生い立ちの違う人と友情をはぐくむこと、血の繋がっていない人と親子のような関係を築くこと、さらに過疎が進む村での問題など、普遍的なもの。観る人、それぞれの経験から、共感する場面も違ってくることと思います。
いろいろなことを考えさせてくれましたが、自分のやりたいことを見つけて、一日一日を大切に過ごしたいと思わせてくれた映画でした。(咲)


都会から来た少年ピエトロと牛飼いのブルーノの物語。二人の友情や、父と子の関係を素晴らしいモンテローザの山々の景色の中で描く。
この山々に惹かれ、その山里に家を借りたお父さんの気持ちわかります。私も北アルプス後立山連峰の眺めに惹かれ、1980年代に大町市と白馬村で北アルプスの山々を眺めながら、延べ5年、働きながら暮らしました。鹿島槍という山の写真を撮るという大義名分で行ったのですが、おかげで山の上での写真展を開くことができました。そして、今年4月に引っ越ししたのですが、片付けをしていたら、その頃撮った写真が山ほど出てきました。自分で焼いた白黒プリントですが、素晴らしい景色の数々に、この頃はこういうところに行っていろいろな写真が撮れたんだなと、我ながらよくやったという気持ちになりました。心臓手術をして、もう山には登れなくなってしまった私ですが、この映画の主人公たちの山での生活を観て、熱心に山に通っていたころの自分を思いだし、自分の可能性ということを考えました。
「自分がやりたいと思ったことは、体力が必要なことなら、体力があるうちにやっておく」。若い頃のように動けなくなってしまった今、この映画を観て、主人公たちのように、いろいろ挑戦していた頃の自分を思い出しました。
この作品は、チャレンジすることの素晴らしさ、友情など、いろいろなことを考えさせてくれました。35年以上たった今も、大町や白馬で出会った人たちとの交流は続いています。ずっと山小屋の支配人として働いていた友人からの年賀状に「定年退職しました」と書いてあり、月日を感じました。この映画でも二人の友情の長い月日が描かれていました。そして何かがきっかけで、思わず人生が変わっていくことも描かれていました(暁)。


第75回カンヌ国際映画祭 審査員賞受賞
第67回バリャドリッド国際映画祭 最優秀撮影賞、ブロゴス・デ・オロ賞受賞

2022年/イタリア・ベルギー・フランス/イタリア語/147分/1.33:1
日本語字幕:関口英子
配給:セテラ・インターナショナル
公式サイトhttp://www.cetera.co.jp/theeightmountains/
★2023 年5月5日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、シネ・リーブル池袋ほか全国公開




posted by sakiko at 19:28| Comment(0) | イタリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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