2023年3/10(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他全国順次公開!
劇場情報
映画を愛するすべての人へ。かつて輝きながら消えていったすべての者たちへ
監督・脚本:シン・スウォン『マドンナ』
撮影:ユン・ジウン
出演
ジワン:イ・ジョンウン『パラサイト 半地下の家族』
サンウ:クォン・ヘヒョ『あなたの顔の前に』
ポラム:タン・ジュンサン『愛の不時着』
失われたフィルムをめぐって、夢と現実、現在と過去、映画と人生が交錯する
かつて何作か映画を撮ったものの、ヒット作に恵まれず、新作を撮る目処が立たない映画監督のジワン。監督としてのキャリアも母親としても中途半端で、息子からも「母さんの映画つまんない」と酷評される。夫とも生活費の折半などでいがみ合っている。
そのジワンがバイトで引き受けたのは、60年代に活動した韓国の女性監督、ホン・ジェウォンが製作した映画『女判事』(1962)。これは韓国初の女性判事が毒殺された実話を映画化したものだったが、その欠落した音声を修復するというプロジェクト。作業を進めるうちフィルムの一部が検閲でカットされていることに気づいたジワンは、ホン監督の家族や関係者のもとを訪ねながら真相を探っていく。
現在と過去、その狭間を行きつ戻りつしながら、ホン・ジェォン監督のフィルムの修復をする過程で、ホン・ジェウォン監督始め韓国映画界での女性監督の立場、編集などを担った女性映画人の人生があぶりだされ、ジワンはフィルムの修復とともに、自分自身の人生も見つめ直し、新しい一歩を踏み出していく。
映画のタイトルが示すとおり、これまで生み出されてきたすべての映画や、それに携わってきた人びとへの“オマージュ”が示される感動作。
主人公ジワンを演じるのは、『パラサイト 半地下の家族』(2019)で怪しい家政婦役を演じていた名バイプレイヤーのイ・ジョンウン。今回単独初主演でアジア太平洋映画賞最優秀演技賞を受賞。夫を演じるのは、TVドラマ「冬のソナタ」や『あなたの顔の前に』(2021)をはじめホン・サンス監督作品の常連としても知られるクォン・ヘヒョ。息子役にはドラマ『愛の不時着』(2019)のタン・ジュンサン。韓国映画、ドラマファンにお馴染みの実力派俳優が集結した。
監督は『マドンナ』(2014)、『ガラスの庭園』(2017)のシン・スウォン。悩みながらも映画を撮ることを諦めないジワンに自身を投影させ、女性たちが時を超えて手をつなぎ、連帯する物語に昇華させた。
2021年の東京国際映画祭で一番印象に残ったのがこの作品。2010年東京国際映画祭最優秀アジア映画賞に輝いた『虹』のシン・スウォン監督の新作で、映画愛に満ちた、映画へのオマージュである。さりげないセリフの中にユーモアがあったり、先輩監督の苦悩の中に韓国だけでなく世界中の女性監督が映画を続ける上での苦難を表現していたり、欠落したフィルムがみつかるシーンの意外性も素晴らしく感動的な作品だった。
欠落したフィルムには女性(判事?)がタバコを吸うシーンが写っていたけど、当時は女性がタバコを吸うシーンでさえ、検閲に引っかかっていたのだろうか。2021年の東京国際映画祭でグランプリをとった『ヴェラは海の夢を見る』では、主人公のヴェラという女性がなにかというとタバコを吸っていて、この主人公タバコ吸いすぎと気になった。
70年代のウーマンリブの人たちは、日本でもわざとタバコを吸う人たちがいた。「女がタバコを吸うなんて」ということに対する抗いのためだった。韓国でもそういうこともあって、ホン・ジェウォン監督は『女判事』で女性がタバコを吸うシーンを入れたのかもと思った。その気持ちはわかるけど、私自身は嫌煙権を主張したい方なので、女性・男性に限らず、映画の中でタバコを吸うシーンが多いのは好きじゃない。
ホームコメディかと思うような冒頭のシーンからは、こういうシリアスなテーマを扱う作品とは全然思わなかった。ミステリアスだったり、厳しい現実も描いていて、映画の作りがとてもうまいと思った。そして、優しさにあふれていた。
シン・スウォン監督は「当時の非常に保守的な環境の中、自分自身や他人からの視線と闘いながら生き残ってきた女性監督たちの姿が、自分自身の苦悩と重なる思いがあったから、いつかこれをモチーフにした映画を撮りたいと思っていた」と語っている(暁)。
東京国際映画祭で観ることができなかったので、待ちに待った公開です。今でこそ、韓国映画界でも女性の活躍が目覚ましいですが、60年代の韓国での女性映画人の置かれた厳しい状況のわかる作品です。
シン・スウォン監督は、2011年、韓国初の女性映画監督パク・ナモクと2人目のホン・ウノンについてのテレビドキュメンタリーを撮っています。『オマージュ』の中で、パク・ナモク監督が、子どもを背負って『未亡人』を撮影していたことに言及されています。
本作で取り上げられている60年代に活動した韓国で二人目の女性監督ホン・ジェウォンは、3本製作しているのですが、3本ともフィルムが紛失。『女判事』(1962)のフィルムがやっと見つかり、修復することがメインの話になっています。欠落した部分が見つかり、切られたフィルムには、女性が煙草を吸っている場面が映っていました。そのほかにどんな部分が検閲に引っかかったのでしょう。
編集技師の女性が、「女が編集室に入ると縁起が悪いと塩をまかれた」と語る場面がありました。60年代の日本も、同じような男尊女卑の状況だったのではないかと思います。
その編集技師の女性を含め3人の女性が映っている写真を頼りに、かつて明洞茶房があった乙支路(ウルチロ)ビルを訪ねる場面があります。そこで一人で囲碁をしていた男性は、かつて映画監督だった人物。その男性のところに、コーヒーと卵が運ばれてきます。てっきり、モーニングサービスのゆで卵と思ったら、その卵をコーヒーに入れて飲むのです。調べてみたら、コーヒーに生卵の黄身を落として飲む、韓国流モーニングコーヒー(韓国語で「モニンコッピ」)で、70~80年代によく飲まれたのだそうです。
本作では、主人公ジワンが自立しようと、家庭内別居すると宣言します。それを聞いた息子、「3食つくから入隊する!」というところが、いかにもの韓国事情。 ジワンは家事から解放されて、生き生きと映画の修復に臨むのですが、息子から「お父さんが夢見る女といると寂しいって。監督やめて」と言われてしまいます。 韓国では、女性の非婚率が増えているとか。さもありなんです。(咲)
公式サイトはこちら
2021年|韓国映画|韓国語|108分|5.1ch|シネスコ|字幕翻訳:江波智子
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム
2023年02月26日
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