2023年02月19日

ただいま、つなかん

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監督:風間研一
音楽:岡本優子
語り:渡辺謙
出演:菅野和享、菅野一代夫妻

宮城県気仙沼市、唐桑(からくわ)半島の鮪立(しびたち)。美しい入江を見下ろす高台に民宿「唐桑御殿 つなかん」はあります。
100年続く牡蠣の養殖業を営む菅野和享さんと一代さん夫妻は、東日本大震災当時、津波により浸水した自宅を補修し、学生ボランティアの拠点として開放、半年間で延べ500人を受け入れてきました。若者たちに「つなかん」と呼ばれたその場所が、夫妻の「皆がいつでも帰ってこられるように」との思いから、2013年の秋に民宿に生まれ変わります。
女将となった一代さんは、自慢の牡蠣やワカメを振る舞い、土地の魅力を自ら発信。そんな「つなかん」に引き寄せられるかのように、次々とこの地に移り住む元ボランティアの若者たち。彼らは海を豊かにする森を育てたり、漁師のための早朝食堂を営んだり、移住者のサポート体制を整えたりと、地域に根ざしたまちづくりに取り組み始めます。

あの3月11日で被災した後、「つなかん」は菅野さん夫婦によって運営され、二人を慕う人たちによって支えられてきました。10年以上にわたりテレビ報道の現場から関わってきた風間研一ディレクターが、本作を初監督。震災からたちあがった「つなかん」とそこに「ただいま!」と帰ってくるひとたちを映像に残しました。
初めて訪ねても「お帰り!」と迎えてくれそうな一代さんの笑顔に魅了されます。それが、不幸な事故で養殖業をたたみ、家に閉じこもってしまうことになったとは。明るく元気だった一代さんにかける言葉もみつかりません。周りはみんな同じだったでしょう。
でも、日にち薬がきいたのか一代さんはまた立ち上がってくれました。安堵すると同時に胸のうちを考えると、人生は理不尽だと思ってしまいます。流した涙と同じほど、いいことにも巡り合ってほしいです。
民宿「唐桑御殿 つなかん」はこちら。いつか泊りがけで行きたいところです。(白)


「つなかん」、音ではツナ缶と一緒ですが、鮪立(しびたち)の鮪と、菅野(かんの)さんの「かん」で「つなかん」なのですね。
養殖業を営んでいた菅野さん夫妻は、東日本大震災で船以外のすべてを失いました。浸水した自宅は、壊すつもりだったのをやめ、補修して、学生ボランティアの宿泊場所として開放。学生たちに養殖の技術を教えながら、手助けしてもらって養殖業を立て直しました。
物静かで渋い男の菅野和享さんと対照的に、奥さまの一代さんは、いつも明るく元気で笑顔が素敵です。風間研一ディレクターが震災以来、ずっと一家を追っていた中で、思いもかけない不幸が襲いました。カメラになんとか笑顔を見せる一代さんの胸中を思うといたたまれませんでした。
もう40年以上前に、唐桑ユースホステルに行ったことがあります。唐桑半島は、ぐっと入り込んでいて、気仙沼駅から船で行ったのを思い出して、検索してみたら、「気仙沼ー唐桑間で定期運行されていた唐桑汽船が2007年3月31日をもって40年の歴史に幕を閉じた」とありました。唐桑汽船は昭和42年に小鯖、鮪立、宿浦 各港の個人経営の業者が合併して設立されたもの。車が普及して、定期船を利用する人が少なくなって廃止になってしまったようです。
唐桑ユースホステルはこじんまりしていて、ユースホステル仲間の間でアットホームなところと人気でした。唐桑には一度しか行ったことがないのですが、その時に一緒に行ったのが、角館近くのまつばユースホステルの常連仲間でした。まつばにも一代さんのような元気なおばさんがいて、慕って通う人が多かったのです。もう一つの故郷という感じで「ただいま」と帰れるところがあるのは幸せなことだとしみじみ思います。(咲)


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震災から5年後に全国から集まった元ボランティアとの記念撮影 ©️2023 bunkakobo

唐桑半島鮪立を舞台に、民宿「つなかん」の名物女将一代さんと震災ボランティアたちの交流を追ったドキュメンタリー。これまでTVでもだいぶ紹介されてきたらしいけど、知らなかった。東日本大震災関係の映画や番組はけっこう見てきたつもりだったけど、この「つなかん」のことは、この映画で知りました。
この菅野さん夫妻とボランティアの人たちとの関係のような、地元の人の思いに触れて、地元に移り住んだ若者たちとの関係は他にもたくさんあると思いますが、お互い影響し合い、新しい地域の関係を作っていく姿がすがすがしく思いました。
一代さんを主人公にはしていますが、震災を通じて出会った人々の人生を変えるきっかけとなった物語が凝縮された映画。震災という災難が出会いのきっかけではあるけれど、出会いのすばらしさが描かれていました。
この中にも出てきた「海の栄養は山(森)が作る」ということを初めて知ったのは、龍村仁監督の『地球交響曲 ガイアシンフォニー 第八番』(2015)でした。この中でこのことを言っていたのが牡蠣養殖漁師の畠山重篤さん。海の環境を守るには海に注ぐ川、 さらに上流の森を守ることの大切さを説き、漁師仲間とNPO法人「森は海の恋人」を結成し植樹を続けています。今、ネットで調べてみたら、畠山さんも唐桑の人だった! 一代さんたちの山での森作りは畠山さんたちが続けてきた植樹の運動に協力しているのかも。畠山さんのことは、TVのドキュメンタリーや映画でも見ていたのですが、なんで一代さんのことは知らなかったんだろう。もっと前に知っていれば「つなかん」に行っていただろうな。この映画を観たら、私も「つなかん」に行ってみたくなりました。(暁)


2023年/日本/カラー/16:9/DCP/115分/ドキュメンタリー
配給:ウッキー・プロダクション
(C)2023 bunkakobo
https://tuna-kan.com/
https://twitter.com/tuna_kan_movie
https://www.facebook.com/tuna.kan2023/
★2023年2月24日(金)より宮城・フォーラム仙台、2月25日(土)よりポレポレ東中野にて劇場公開!ほか全国順次公開

posted by shiraishi at 18:38| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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