2023年02月19日

ペーパーシティ 東京大空襲の記憶   原題:Paper City

paper city.jpg
(C)2021 Feather Films Pty Ltd, Filmfest Limited

監督:エイドリアン・フランシス
出演:清岡美知子、星野弘、築山実

東京を拠点にするオーストラリア人映画監督エイドリアン・フランシスが語り継ぐ東京大空襲

1945年3月10日午前0時過ぎ、アメリカ軍の爆撃機が東京を襲撃。木造の家屋が密集する下町を中心に東京の4分の1が焼失。日の出までに10万人以上の死者を出すという、史上最大の空襲だった。
エイドリアン・フランシス監督は、東京で暮らして数年経って初めて東京大空襲のことを知り、これほどの大惨事だったのに、痕跡がほとんどないことに驚く。広島の原爆ドームのような、東京大空襲を象徴するものは遺されていないし、公的な慰霊碑も建てられていないのだ。
生存者は生きているのだろうか。
東京大空襲を語り継ぎたくなかったのだろうか・・・
監督は、生き証人を探し出す。 
浅草寺近くで生まれ育った清岡美知子さん。言問橋の下で冷たい水の中、木の棒にしがみついて助かる。数日後、姉と父の傷一つない遺体を見つける。戦後、戦争を経験していない世代の人々に空襲の恐ろしさを伝えるため活動している。
押上で生まれ育った星野弘さん。空襲の翌朝、死体で埋まった水路を目にする。憲兵隊に遺体を水の中から引きあげる作業を命じられる。元兵士には日本政府のサポートがあるのに、民間人は忘れ去られていると嘆く。
江東区森下で暮らしていた築山実さん。近くに軍の標的になるものはなかったので安全だと思い込んでいた。空襲で3人の兄弟をはじめ多くの知人を失う。亡くなった人の名前を記した巻物を作り保管してきたが、この先受け継いでもらえるのか心配している・・・

映画の冒頭、米軍機が爆弾投下に向かう映像が映されました。「東京を焼いちゃおう」と、まるでゲーム感覚。火の海になり、深夜の東京の町を彷徨った人たちの姿は、語ってくださった方たちの言葉から想像するしかありません。

私の知人に昭和3年生まれで、東京大空襲を墨田区の本所吾妻橋付近で経験した方がいました。「3月10日の東京大空襲って言われるけど、僕の感覚では3月9日の深夜」と、あの町を隅田川に向かって逃げまどった日のことをよく話してくださいました。その方も、10年程前に他界。エイドリアン・フランシス監督が、かろうじてご存命の方たちにご体験を聞き、こうして1本の映画に残してくださったことに感謝です。

私は戦後生まれですが、それでも戦争中や戦前について、子供の頃から両親をはじめ多くの方から聞く機会がありました。今の若い人たちは、日本がアメリカと戦争をし、負けた故に今の日本社会の様々な仕組みがあることを認識していない方が多いのではないでしょうか。憲法しかり、教育制度しかり。
戦争で失ったものは多くの人命をはじめたくさんあります。本作のタイトルになっている「ペーパーシティ」。木と紙で出来た伝統的な日本家屋の美しい家並みの多くが、米軍の空襲で焼かれてしまったことも忘れてはなりません。空襲を免れた京都をはじめ、日本各地に点在する伝統的街並みが郷愁をそそる観光地にもなっていますが、かつての日本は、どこの町にも瓦屋根の美しい家並みがあったことに思いがいたります。戦後、焼け跡の町を復興するときに、なぜ美しい町並みを復元しなかったところが多いのでしょう・・・ 
そして、今、戦争の時代を経験していない人たちが政治の中心にいて、日本がまた戦争に加担しかねない状況に進んでいるのではと危惧します。空襲で家族を失うという無念な思いを抱えて生きてきた人たちの言葉に、政治を担う人たちこそ耳を傾けてほしいものです。(咲)


東京ドキュメンタリー映画祭2022 観客賞受賞

2021年/オーストラリア/80分
配給:フェザーフィルムス
公式サイト:https://papercityfilm.com/
★2023年2月25日よりシアター・イメージフォーラムにて公開




posted by sakiko at 00:27| Comment(0) | オーストラリア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください