監督・脚本・編集:北口ユースケ
脚本:前田有貴
撮影:石原ひなた
音楽:饗場公三
主題歌:イロハサクラ
出演:朝比奈めいり(西園オトセ)、並木愛枝(陽子)、寺浦麻貴(広川夢)、井之上チャル(好井雅人)、ドヰタイジ(ソウジュン)
親からの虐待を受け、児童養護施設で育った西園オトセは、施設を離れホテルの清掃係として働き始める。初めての社会生活で不安になりながらも、自立の道を模索しようとするオトセの前に、14年間音信不通だった母、陽子が突然現れる。金銭目的だと分かっていながらも、血の繋がった母との再会に喜びを隠しきれないオトセは葛藤する。そしてその葛藤はオトセを自傷行為へと駆り立てる。一方、地下アイドルの広川夢は、望まぬ子を身籠ったままステージに立つ。二組の母子の人生は交錯し、オトセはやがて過去の自分と対峙すべく母が暮らす生家へと向かう。
室町時代の堺市に実在したと言われる伝説の遊女「地獄太夫」の人生をモチーフに、新進気鋭の北口ユースケ監督が、運命に翻弄される女性達の姿を細やかに描きました。18歳になると自立の道を歩まねばならないオトセ、施設を出るときに持った私物は箱一つに入るだけでした。勤め先のホテルは寮つきで、好待遇と言えそうですが、オトセのお金を目当てに母親が会いにきます。
詳しい背景は描かれていませんが、母親の陽子は、たぶん若いうちに望まない妊娠をし、大人になる前に母親になってしまった人なのでしょう。並木愛枝さんは『ある朝スウプは』(2005)を観て以来、北口監督がほれ込んだ女優さん。いろいろな感情がないまぜになっている陽子を演じてさすがです。
現れたり消えたりするソウジュンは、きっとオトセのイマジナリーフレンド。ドヰタイジさんがちょっとユーモラスで、出てくるとホッとします。いない父代わりだろうと思われる姿ですが、オトセが生み出したものなので、オトセを越えたことはできませんし、言えません。
映画のモチーフになっている地獄太夫(じごくだゆう)は堺で名をはせた遊女で、一休宗純と交流があったと伝えられています。遊女は苦界に生きるもの、オトセも陽子も此岸にいながら彼岸に限りなく近い崖っぷちで生きています。地下アイドルの広川夢にも父親の姿はありませんが、母親がしっかりした働き者で、娘を支えようとしていることに安心します。陽子が自覚を持ってオトセと二人助け合って、と願いたくなる作品でした。
作品中に出てくる地獄太夫を想像させる打掛や、アイドルたちの衣装は服飾を学んでいる学生たちが作ったもの。面白いコラボです。(白)
☆北口ユースケ監督のインタビューはこちら
☆主演の朝比奈めいりさん、並木愛枝さんのインタビューはこちら
2022年/日本・アメリカ合作/カラー/90分
配給:新日本映画社
(C)2022「彼岸のふたり」製作委員会
http://higannofutari.com/ja/
★2023年2月4日(土)池袋シネマ・ロサほか全国順次公開
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