2023年01月15日

母の聖戦  原題:La Civil

hahano seisen.jpg
(C) 2021 Menuetto/ One For The Road/ Les Films du Fleuve/ Mobra Films

監督:テオドラ・アナ・ミハイ 
製作:ハンス・エヴァラエル 
共同製作:ダルデンヌ兄弟、クリスティアン・ムンジウ、ミシェル・フランコ
出演:アルセリア・ラミレス、アルバロ・ゲレロ、アジェレン・ムソ、ホルヘ・A・ヒメネス

メキシコ北部の町。十代の美しい娘ラウラ(デニッセ・アスピルクエタ)は念入りに化粧をして、母シエロ(アルセリア・ラミレス)にも口紅をさして、ボーイフレンドに会いに出かけていく。それが、シエロが娘の姿を見た最後になってしまう。若い男(ダニエル・ガルシア)から呼び出され、「娘に会いたかったら明日までに15万ペソと旦那の車をよこせ。警察や軍に通報するな」と言い渡される。
シエロは、今は若い愛人と暮らしている夫グスタボ(アルバロ・ゲレロ)のところに行き、事態を話す。翌日、夫と一緒に男に会いに行き、用意できた2万5千ペソと車を渡すが、それでは足りないと追加5万ペソを要求される。居合わせた夫の友人で地元の有力者ドン・キケ(エリヒオ・メレンデス)が夫の店の商品と引き換えに金を出してくれるが、ラウラを返してくれない。
警察に相談しても埒があかず、シエロは自力で娘を取り戻そうと犯罪組織を探り始める。この町に着任して間もない軍のラマルケ中尉(ホルヘ・A・ヒメネス)から、シエロが収集した犯罪組織の情報と引き換えにラウラの捜索を助けるといわれる。協力して、誘拐犯に迫っていくが、はたして、ラウロは無事なのか・・・

ルーマニア生まれでベルギーを拠点に活動する女性監督テオドラ・ミハイの劇映画デビュー作。チャウシェスク政権下のルーマニアに生まれた彼女は、8歳の頃にベルギーに移住。その後、米国カリフォルニアで中高生時代を送り、ニューヨークの大学で映画を学んだ後、ベルギーに戻り、映像業界に入る。メキシコの麻薬戦争下での子供たちを題材とするドキュメンタリーを企画していた中で、『母の聖戦』の主人公シエロのモデルとなった実在の女性ミリアム・ロドリゲスに出会い、フィクションで本作の製作を決めたという。
ベルギーの名匠ダルデンヌ兄弟、『4ヶ月、3週と2日』でカンヌ映画祭パルムドールに輝いたクリスティアン・ムンジウ、『或る終焉』で知られるメキシコの俊英ミシェル・フランコがプロデューサーとして参加。
撮影監督は、ラドゥ・ジューデ監督の問題作『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ 監督〈自己検閲〉版』などに携わってきたルーマニア人のマリウス・パンドゥル。

simin kantoku.jpg
第34回東京国際映画祭で『市民』のタイトルで上映され、審査員特別賞受賞した折のテオドラ・ミハイ監督  (撮影:宮崎暁美)

メキシコでは、犯罪組織による誘拐ビジネスが横行していて、2020年には826件の誘拐事件が報告されているとのこと。これは届出件数で、実際には年間約6万件もの誘拐事件が頻発していると推定されています。
身代金を払っても、娘を返してもらえない母の無念の思いをずっしり感じた映画でした。
夫が、「なぜ娘を一人で出かけさせた」と怒鳴る場面がありました。ボーイフレンドに迎えに来させるべきだったということなのでしょう。けれども、こんなに誘拐が頻発している国では、二人一緒に誘拐されることもありえるでしょう。
メキシコだけでなく、安心して出歩けないところは世界各地に多々あることと思います。
なぜタイトルが『La Civil(市民)』なのか? 
司法に守られ、安心して暮らせるのが市民でしょうか・・・
監督のタイトルに込めた思いを伺ってみたいところです。(咲)


メキシコでは、日本では考えられない誘拐ビジネスが横行し、金持ちだけでなく庶民もその中に巻き込まれている。母親のシエロは娘の行方を探し回り闘った。闘った相手は誘拐犯だけじゃない。格差と腐敗が日常化した社会。警察は市民の味方ではなく、信用できるのは誰なのか。疑心暗鬼の中で娘の行方を追う。シエロが最後に見たものは何だったのか。彼女の願いは届いたのか。
誘拐犯に車や家を壊され、シエロは現場に駆け付けた軍関係者と組み、誘拐犯を追い、娘を取り戻そうと奔走する。しかし、乗り越えられない大きな現実にぶつかる。知り合いさえ信用できない。それでも彼女は挑んでゆく。
この作品は男中心のマチズモ的社会への批判も込められ、女性の力を示した作品でもある。娘の父親であるシエロの元夫は、家族を捨て愛人と暮らしている。娘の身代金を出してはくれるが頼りにならず、シエロは一人で娘をさがす。母の愛情、勇気を緊張感たっぷりの映像の中に取り入れ、展開がどうなるか一喜一憂しながら観ていた(暁)。


TIFF公式インタビュー「多様な解釈が成立しますが、最終的に子供を誘拐された親の気持ちに寄り添いたかった。」テオドラ・アナ・ミハイ監督:コンペティション部門『市民』
https://2021.tiff-jp.net/news/ja/?p=58459

2021年/ベルギー・ルーマニア・メキシコ合作/135分/カラー/スペイン語/5.1chデジタル/ビスタサイズ
字幕翻訳:渡部美貴
配給:ハーク 配給協力:FLICKK  
公式サイト:https:// www.hark3.com/haha
★2023年1月20日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国ロードショー
posted by sakiko at 18:02| Comment(0) | メキシコ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください