2023年01月08日
エンドロールのつづき 原題:Chhello Show 英題:Last Film Show
監督・脚本・プロデューサー:パン・ナリン
出演:バヴィン・ラバリ(サマイ)、バヴェーシュ・シュリマリ(ファザル)、リチャー・ミーナー(母親)、ディペン・ラヴァル(父親)
2010年、インド・グジャラート州の田舎町。9歳の少年サマイは、学校に通いながら、父が駅で営むチャイ店を手伝っている。ある日、いつも映画は低劣という父が、カーリー女神様の映画は特別と、母や妹も伴って街の映画館・ギャラクシー座に連れていってくれる。映写室からの光が映し出す映画にサマイは夢中になり、「映画を作りたい」というが、「お前はバラモン階級の生まれ。映画は穢れ」と父にダメだと言われる。
翌日も学校を抜け出してギャラクシー座で映画を観るが、終電に乗り遅れてしまう。父にこっぴどく叱られるが、こりずにまた映画館に忍び込む。チケットを買ってないのを咎められ、つまみ出されてしまう。泣きべそをかきながら母の作ったお弁当を広げて食べていると、チャパティが薄くて美味しそうだと声をかけられる。映写技師のファザルだった。お弁当と引き換えに、映写室から無料で映画を観ていいと提案される。それから毎日、サマイは学校を抜け出してギャラクシー座の映写室に通うが、ついに父にばれてしまう。
その後、町はずれの廃屋に、映画フィルムの入った箱が保管されているのを知ったサマイは、友人たちとフィルムを少しずつ切って、手作りの映写機でお母さんの白いサリーにフィルムを投影して、皆に見せる。
そんなある日、ファザルから「緊急事態。すぐに来てくれ」と電話が入る。ギャラクシー座にたどり着くと、映写機が運び出されている。デジタルの時代が到来し、最後のフィルム上映が終わったのだ。映画フィルムの入ったたくさんの箱もトラックに積み込まれる。走り去るトラックを、サマイたちはラージコートの町まで必死に追いかける・・・
監督が敬愛する映画人たちへのオマージュが散りばめられた映画愛に溢れる作品。
サマイは映写技師のファザルから多くのことを教えられます。「映画は物語がすべて。嘘が上手くないと。政治家が語るのは票を集めるため、店主は商品を売るため、映画はどう語るかが見せどころ。語り手こそ未来がある」。拾ったマッチ箱の絵で、物語を作って友人たちに聞かせていたサマイには、お手の物。
学校の先生からは、「何かやりたいなら、必要なことが二つ。英語を学ぶこと、そして町を出ること」と励まされます。カースト制度が根付いているインドですが、「今のインドには、二つの層しかない。英語の出来る層と出来ない層」とも。最高位のバラモンであっても、英語が出来なければどうしようもないという次第。
サマイのお父さんは、かつては500頭の牛を飼っていたのに、兄弟に騙し取られた人のいい人物。でも、英語が出来なくて、列車が今後この駅には止まらないという通達も読めなかったのです。そんなお父さんも、ついにサマイの熱意にほだされて見守る姿が微笑ましいです。
本作は、パン・ナリン監督の半自伝的物語。監督の育ったグジャラート州のカティアワル地域で、母親役以外はすべてグジャラート出身者を起用して撮影。中でも、オーディションした3000人もの少年の中から選ばれたサマイ役のバヴィン・ラバリは絶品。
日本で初めて一般公開されるグジャラート語の映画で、やわらかいグジャラート語の響きが心地いいです。お母さんの作る野菜を使った様々な料理も、とても美味しそうです。グジャラートのお料理を食べてみたくなりました。(咲)
ジュゼッペ・トルナトーレ監督『ニュー・シネマ・パラダイス』をすぐに思い出しました。映画に魅せられ、のめりこみ、そして生業とするトト少年も同じように目を輝かせていました。3月公開予定の『フェイブルマンズ』を楽しみにしているところですが、そちらはスティーブン・スピルバーグ監督が自ら作った自伝的映画。そこでも目をキラキラさせた男の子が登場するはずです。
サマイの豊かな想像力とそれをかなえていく行動力、それがあったから引き寄せてつながった縁。父親は映画を禁じますが、母親は逆らわずに息子に自分のできる応援をします。あの美味しいお弁当がなければ、映写室に入ることはできませんでした。あれこれがみな一つのために繋がっていって、監督が誕生し、この映画が出来上がったことを考えると、何一つ不要なことはなくどれも必要だったと思えます。今、うまくいかないことを嘆いている人も、できることを精一杯していれば(待ってるだけではなく!)夢に近づいていくのだと後押ししてくれる作品です。(白)
☆パン・ナリン監督トークショー書き起こし記事はこちら
☆本年度アカデミー賞®国際長編映画賞インド代表
2021年/インド・フランス/グジャラート語/112分/スコープ/カラー/5.1ch
日本語字幕:福永詩乃
応援:インド大使館
配給:松竹
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/endroll/
★2023年1月20日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネリーブル池袋 他全国公開
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