2022年10月03日

千夜、一夜

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監督・編集:久保田直
脚本:青木研次
撮影:山崎裕
出演:田中裕子(若松登美子)、尾野真千子(田村奈美)、安藤政信(田村洋司)、ダンカン(藤倉春男)、白石加代子(藤倉千代)、長内美奈子

離島の港町で一人暮らしている若松登美子。夫の諭(さとし)が出かけたまま帰らず30年が経った。警察に届け、尋ね人のチラシを作り、手を尽くして探し続けたが、出て行った理由も、生死すらもわからない。漁師の春男はそんな登美子をずっと想い続けているが、登美子は諭のささやかな記憶を反芻して今も待ち続けている。
登美子の元に2年前に夫が失踪した田村奈美が現れる。いなくなった理由がわかったら、気持ちを整理できて、新しい一歩を踏み出せるという。

予告編の第一声が「日本の行方不明者数、年間8万人。今もどこかで待ち続ける人がいる」。これは警察に「行方不明」と届けられたのべ人数です。同じ人もいるかもしれませんが、届けられない人の数もまた多いはずです。この数に驚きましたが、9割ほどは行方が判ったり、戻ったり何らかの解決がされているそうです。奈美と洋司のような夫婦も、現実にきっといるのでしょう。そして登美子のように、長期間なんの手がかりもないままの人も。
夫の声の入ったテープを繰り返し聞く登美子の孤独は深いですが、かといって春男が入れる場所はありません。待ち続けるのは苦しくとも、いつか帰ると信じていられるうちは、それが心の支えになるのでしょう。
ダンカンさん熱演の春男、切ない恋情があふれています。春男に向かっていつも口数少なく、抑えている登美子が珍しく大声で叫ぶシーンがあります。田中裕子さんのこれまでの演技でも珍しい場面でした。白石加代子さん演じる息子を案じる千代さんにも胸がしめつけられます。家を出た人は、待っている人にたったひとことでも連絡をとってあげて、とつい思ってしまいました。
東日本大震災の後の福島の家族を描いた『家路』(2014)の久保田直監督と主演の田中裕子さん、2度目のタッグ作品です。(白)


冒頭で、「この島では行方不明者が多い」と語られます。
北の離島。一瞬、佐渡とわかる場面があって、拉致されてしまった人が多いのかなと。
拉致被害者で20年前に帰国された曽我ひとみさんは、佐渡の方。 91歳になるお母さまは、いまだに佐渡に帰れないでいるという現実があります。映画の中では、北朝鮮の拉致について声高に語ってないのですが、登美子の夫も拉致されたのでは・・・と思ってしまいました。もっとも、海に囲まれた島だから、海に間違って消えたのかもしれません。いつか帰ってくる・・・と待ち続ける登美子を、田中裕子さんがしっとりと演じていて、素敵です。
一方、尾野真千子さん演じる奈美は、二年前に失踪した夫のいなくなった理由がわかれば、決着つけて次の人生に進めるという、登美子とは対照的な性格です。身近な人が突然失踪してしまったら・・・ どちらの生き方が楽かは、人それぞれですが、できればそんな目にはあいたくないですね。(咲)


2022年/日本/カラー/ビスタ/DCP/5.1ch/126分
配給:ビターズ・エンド
(C)2022映画『千夜、一夜』製作委員会
https://bitters.co.jp/senyaichiya/
★2022年10月7日(金)テアトル新宿、シネスイッチ銀座ほかロードショー

posted by shiraishi at 17:55| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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