2022年09月17日

バビ・ヤール   原題 Babi Yar. Context

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©Atoms & Void


監督・脚本 セルゲイ・ロズニツァ(『ドンバス』『国葬』『粛清裁判』『アウステルリッツ』
編集 セルゲイ・ロズニツァ、ダニエリュス・コカナウスキス, トマシュ・ヴォルスキ
音響 ウラジミール・ゴロヴニツキー
イメージ・レストレーション ジョナス・ザゴルスカス プロデューサー セルゲイ・ロズニツァ、マリア・シュストヴァ
アソシエイト・プロデューサー イリヤ・フルジャノフスキー(『DAU.ナターシャ』、『DAU.後退』)、マックス・ヤコヴァ

プロダクション Atoms & Void, BABYN YAR HOLOCAUST MEMORIAL CENTER

戦後約50年間、隠蔽されていたウクライナでのユダヤ人虐殺

1941年6月、ナチス・ドイツ軍は独ソ不可侵条約を破棄してソ連に侵攻。占領下のウクライナ各地に傀儡政権を作りながら支配地域を拡大し、9月19日にはキエフを占領。9月24日、混乱するキエフで大爆発が起きた。これはソ連秘密警察が撤退前に仕掛けた爆弾を爆破させたことによるものであったが、疑いの目はユダヤ人に向けられた。翌日、当局はキエフに住む全ユダヤ人の出頭を命じた。出頭したキエフのユダヤ人はナチス・ドイツとそれを支援したウクライナ補助警察により「バビ・ヤール渓谷」で射殺された。被害者は33,771名。女性も子どもも老人もユダヤ人なら身ぐるみ剥がされ殺された。
本作は、ドイツ軍のウクライナ侵略から、この事件の発生、そしてその後の歴史的処理までを、ロシア、ドイツ、ウクライナに所蔵されていた様々なアーカイブ映像を紡いで描いたもの。

1964年にベラルーシで生まれ、ウクライナのキーウ(旧キエフ)で育ったセルゲイ・ロズニツァ監督。キエフ郊外の家から週に数回通っていたプールとの間にある森に旧ユダヤ人墓地の跡地があり、モニュメント建設計画があるのを知り、両親にそこで何があったか尋ねたものの明確な答えがかえってこなかったとのこと。
ソ連は戦後、バビ・ヤール渓谷を「ナチスによってソ連人が殺された場所」とし、ユダヤ人が標的であったことを伏せていたのです。ソ連では諸民族の団結が優先され、特定の民族の犠牲について触れづらい風潮がありました。ソ連が崩壊した1991年ごろになり、バビ・ヤールの歴史を継承する動きが盛んになり、2020年にはバビ・ヤールに博物館を建設することが発表されています。
ただ、ホロコーストやユダヤ人虐殺というと、ナチスドイツが行ったものというイメージですが、本作からは、ウクライナの普通の人たちも加担していたことが見てとれます。
ヨーロッパ各地で、ユダヤ人を匿った美談が映画で描かれている一方で、地元の人たちがナチス・ドイツに協力したことが描かれた映画もあります。
『ホロコーストの罪人』(エイリーク・スヴェンソン監督/2020年/ノルウェー)は、1942年10月26日に、ノルウェーに住むユダヤ人全員がオスロ港へと強制連行されたことを描いた映画です。事件から70年経った2012年1月、当時のノルウェー・ストルテンベルグ首相が、ホロコーストにノルウェー警察や市民らが関与していたことを認め、政府として初めて公式に謝罪の表明を行っています。
フランスでは、1995年にシラク大統領が、ナチス占領下のヴィシー政権がユダヤ人の強制連行に加担していたことを国家として認めて謝罪しています。
人間の本性で、そのときに置かれた立場で、どうすれば自分は生き延びれるかを判断してしまうのだと思います。そんな悲しい性も、ずっしり感じさせられました。(咲)


第74回カンヌ国際映画祭ルイユ・ドール審査員特別賞受賞

2021年/オランダ=ウクライナ/ウクライナ語、ロシア語、ドイツ語、ポーランド語/ドキュメンタリー/121分/4:3/カラー・モノクロ
日本語字幕:守屋愛
配給 サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/babiyar
★2022年9月24日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開



posted by sakiko at 18:47| Comment(0) | ウクライナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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