2022年9月17日(土)より、東京・ポレポレ東中野ほか全国順次公開 劇場情報
父が牛飼いになって、もうすぐ50年になります。
牛飼いになる前、父は医学部の学生でした。
父が医者ではなく牛飼いになったのは、自衛隊とたたかうためでした。
監督・撮影:黒部俊介
編集:秦岳志
ナレーション:内藤陽
整音:川上拓也
制作:黒部麻子
出演:内藤秀之、内藤早苗、内藤大一、内藤陽
政治の季節と青春のその後で、
いま私たちが生きている時代をユニークな視点と映画言語で映し出す。
日本原で50年間、平和を求めながら、地元民が生活する重要な土地であることを訴える内藤秀之(ヒデ)さん一家。その生き方を追ったドキュメンタリー。
岡山県北部の山間の町、奈義町(なぎちょう)。人口6000人のこの町に中国・四国地方で一番大きな軍事演習場である陸上自衛隊日本原(にほんばら)演習場がある。日露戦争後に旧陸軍が村々を強制買収して演習場に。占領軍に接収されたのち自衛隊に引き継がれ今日に至る。奈義町は自衛隊との「共存共栄」を謳ってきた。
この場所が陸上自衛隊の日本原演習場になる前から牛を飼い耕作をしてきた内藤家。1969年頃、自衛隊の危険な実弾演習に反対する農民たちの闘争が始まり、その闘争に共鳴する学生たちが応援に加わり、日本原反基地闘争の現地闘争本部ができた。岡山大学で医学を学んでいたヒデさんもこの闘いに加わり、農民運動の中心であった内藤太・勝野夫妻と出会った。その後、ヒデさんは日本原で反基地闘争を続ける決断をし、大学を辞めて内藤夫妻の婿養子となり農民となり、この地で牧場と農業を続けている。
日本原では昔から地元住民が山に入って土地を共同利用する「入会(いりあい)」が行なわれ、演習場内の耕作権などが防衛省から認められている。演習場内にはかつて二つの村があり、廃村しても農民たちは耕作地に通い、牛を放牧し、米を作り続けていた。それから100 年以上が経ち、代替地を与えられた農民は代々の耕作地を離れ、いまや演習場内で耕作しているのは内藤さん一家だけとなった。かつての村の耕作地は草木が伸び、ほとんど山に還ってしまっている。でも、内藤さん一家は50年間、日本原で平和を求め続け、日本原が地元民の営みが根付く重要な土地であることを訴えている。
ヒデさんが妻の早苗さんと自衛隊と闘いながら作り続けた『山の牛乳』も紹介される。この牛乳が地域の人たちの繋がりの拠り所でもあった。演習場内の神社で行われた春祭り。武器ではなくさつま芋で平和のメッセージを示すため、毎年演習場内の畑で仲間と育てていた。日本原から自衛隊を撤退させ、牛の放牧場にしなければという祖父太さんの言葉をずっと胸に秘めてきた長男の大一さんも、地元に帰ってきて、父親の仕事を手伝い始める。そして日本原で行われた自衛隊と米軍との共同訓練の時には、閉鎖された内藤家の畑に入るため、警護をする自衛隊員と対峙する。そんな、内藤さん一家にカメラを向け、その生き方を記録した。
監督は、日本映画学校映像ジャーナルコースを卒業後、福島第一原発事故を機に2012年に岡山へ移住した黒部俊介。東京から移住した岡山で偶然ヒデさんと出会った黒部は日本原に通い撮影を続けた。内藤秀之さんの次男・陽さんがナレーションを担当。安保法制下の米軍と自衛隊。土地利用規制法が孕む危険。改憲に向かい動きだしそうな現在、「国防」の名のもとで私たちが手放しはじめているものは何か。
「日本原の自衛隊演習場」という名は聞いたことがあるけど、どこにあるかは知らなかった。今回、この映画で岡山県の山間部にあるということを知った。「1969年頃、自衛隊の危険な実弾演習に反対する農民たちの闘争が始まり」となっているので、その頃、この名前を知ったのかも。その当時は、砂川闘争(在日米軍立川基地拡張反対闘争)、安保闘争やベトナム反戦運動、三里塚闘争(成田空港反対運動)など、日本のあちこちで市民運動が起こっていた。この日本原自衛隊演習場への闘争もその流れの中にあったのでしょう。
その農民たちの運動に共鳴し参加していたのが、主人公の内藤秀之(ヒデ)さん。当時、医学生だったが、この農民運動の中心だった内藤太・勝野夫妻の娘である早苗さんと結婚し、ここで生活を続けながら50年間、運動を続けている。そして、長男の大一さんは祖父の太さんが言ったという「日本原から自衛隊を撤退させて牛の放牧場にしないといけない」という最後の言葉を忘れず、外から戻ってきたというシーンには、ヒデさん以外にも継いでいく人がいると、ホッとした。
50年もたつうちに、いつのまにか演習場内で耕作を続けているのは内藤家だけになり、かつての村の耕作地は林だらけになり、山に還ってしまっている。ヒデさんと妻の早苗さんが自衛隊と闘いながら作り続けた「山の牛乳」の生産も終わってしまい、今は内藤さんの家の牛乳はどのような形で市場に出ているのでしょう。そして、ますます自衛隊の存在は大きくなっているように感じる。
今、自衛隊を憲法で認めさせようと、憲法を変えようとしている自民党の思惑がある中、この映画は、内藤さん一家の牛飼いと農業を通した生き様を通して、住民の生活と自衛隊ということを考えさせる映画となっている(暁)。
公式HP https://nihonbara-hidesan.com/
製作:黒べこ企画室 配給:東風
2022年/110分/日本/ドキュメンタリー
2022年09月11日
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