8月6日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開 劇場情報
発掘に魅せられた女たち
監督:松本貴子(『氷の花火 山口小夜子』『≒草間彌生 わたし大好き』)
ナレーション:池田昌子 撮影:門脇妙子、金沢裕司 音楽:川口義之(栗コーダーカルテット) 音楽プロデュース:井田栄司 編集:前嶌健治 タイトル文字・イラストレーション:スソアキコ アニメーション:在家真希子、岸本萌 考古学監修:堤隆 オンライン編集:石原史香 音響効果・整音:髙木創
出演:大竹幸恵、八木勝枝、伊沢加奈子ほか
夢中になれることが人生をこんなに豊かにする
土臭くてラヴリーな発掘ドキュメンタリー
2021年7月に「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録され、注目される縄文文化。約1万6000年〜3000年前に作られた奇抜な模様やデザインの土器や、可愛い造形の土偶たちは多くの現代人を惹きつける。この作品はその縄文時代に思いを馳せ、「発掘」に魅せられた女性たちを日本各地に訪ね歩く。『氷の花火 山口小夜子』『≒草間彌生 わたし大好き』が話題になった松本貴子監督は、縄文遺跡の発掘調査に携わる女性たちを3年間にわたって記録した。男仕事と思われがちな遺跡発掘だが、女性も結構参加している。汗だく、泥だらけになりながらブラシやスコップを駆使して、貴重な文化遺産を見つけ出す彼女たち。発見の喜びが原動力。そんな女性たちが、あなたを縄文時代へと誘う。ナレーションは「銀河鉄道999」のメーテル役で知られる池田昌子。
ラジオ体操で始まる発掘現場。大勢の作業者たちが広大な遺跡発掘現場に散らばり、それぞれ発掘作業を始める。そこで発掘されたものは「落し物」として警察に届けられるという。そんな古代人の落し物を探し続ける人たちの中に「縄文時代からの贈りもの」にハマった女性たちがいた。
八ヶ岳の西、長野県立科町にある星糞(ホシクソ)峠の遺跡発掘現場。大昔、そこは矢じりや石器に使われた黒曜石の発掘現場だった。この地方では黒曜石のことを方言で星糞と呼ぶ。調査員として働く大竹幸恵さんは、その発掘現場で30年働き、今では10名の作業員を率いて、毎日、泥まみれになって遺跡を発掘し、定年を迎える。小学6年生の時に土器をみつけて以来、明治大学で考古学を学び、考古学一筋の人生を続けてきた。
発掘が始まったばかりの岩手県洋野町にある北玉川遺跡。調査員の八木勝枝さんは作業員を指揮している。この作業現場は女性が多く笑いが絶えない。八木さんは土偶が大好き。これまで発掘してきた数々の土偶を愛おしそうに紹介する。遺跡はその土地の思い出の品と語る。八木さんも明治大学で考古学を学んだ。
神奈川県秦野市にある稲荷木遺跡は、調査員8名、作業員200名という巨大な現場。縄文時代中期から後期にかけての大規模な集落跡で、次々と土器や土偶が出てくる。そこで作業員として働く池田由美子さんは、珍しい釣手土器を発掘中。20年以上のベテラン。ポストに入っていた求人チラシで応募し、働いてすぐに珍しい土器を発見し発掘作業にはまる。青森県八戸市の風張1遺跡の作業員、山内良子さんと林崎恵子さんは、働き始めた1989年に、のちに国宝になった合掌土偶を発掘。山内さんは身体を、林崎さんは左足を発見。その時の思い出を熱く語る。こうして、思わぬ発見が考古学に縁がなかった女性たちの人生を変えることもある。
栃木県中根八幡遺跡では大学生たちが発掘を行なっている。その中で働いていたのが
國學院大学大学院生の伊沢加奈子さん。そこで出会った考古学に夢中になって短期大学から國學院大学文学部史学科考古専攻に編入し、卒業後、地元の栃木県壬生町立歴史民俗資料館学芸員になった。
星糞峠の発掘は終了し現場は埋められ、そこに去年(2021)建立された「黒耀石体験ミュージアム」に発掘現場から削り取った地層が展示されている。北玉川遺跡も稲荷木遺跡も埋められて道路が作られる。考古学は掘っては埋めての繰り返し。そして新しい現場で、今日も汗水流している「掘る女」の姿が。
小学生の時ツタンカーメンに興味を持ち、1965年、中学2年の時、上野の国立博物館で開催された「ツタンカーメン展」に行き、いっそう考古学に傾倒。エジプトのピラミッドや発掘現場を見に行きたいと思った。高校生になるとシュリーマンのトロイア発掘の本を夢中になって読んだ。どこか忘れたけど、東京三多摩の遺跡発掘現場へ見学に行ったこともあった。でも、考古学の分野に進むという考えは思いつかなかった。
この映画を観て、私も自分の興味がある考古学の分野に進めばよかった、その手があったかと思ったけど、50年以上前は、女性が考古学の分野で活動するということは考えられなかった。ここに出てきた女性たちは、子供のころに興味を持った考古学の分野に突き進んだ人もいれば、パートで始めた発掘の仕事で、土器や土偶を発見し、発掘にハマってしまった人もいる。でも、みんな、泥や汗にまみれて発掘をすることを苦には思っていない。夢中になれるものがあるというのは人生を豊かにする(暁)。
『掘る女 縄文人の落とし物』公式HP
2022年/日本/111分/カラー/DCP
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
製作・配給:ぴけプロダクション 配給協力・宣伝:プレイタイム
2022年07月31日
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