2022年07月01日

こちらあみ子

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監督・脚本:森井勇佑
原作:今村夏子「あたらしい娘」(「こちらあみ子」に改題)
撮影・照明:岩永洋
音楽:青葉市子
出演:大沢一菜(あみ子)、井浦新(お父さん・哲郎)、尾野真千子(お母さん・さゆり)、奥村天晴(お兄ちゃん)、大関悠士(のり君)、 橘高亨牧(坊主頭)

あみ子はちょっと風変わりな女の子。優しいお父さん、いっしょに遊んでくれるお兄ちゃん、書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいるお母さん、憧れの同級生のり君、たくさんの人に見守られながら元気いっぱいに過ごしていた。だが、彼女のあまりに純粋無垢な行動は、周囲の人たちを否応なく変えていくことになる。誕生日にもらった電池切れのトランシーバーに話しかけるあみ子。「応答せよ、応答せよ。こちらあみ子」

今村夏子さんの原作を読んで、森井監督がどうしても映画化したいと切望した作品。オーディションで一目ぼれしたという大沢一菜(かな)さんが、あみ子を越えたあみ子としてスクリーンの中にいました。なんと目の力の強い子でしょう。ことばをそのとおり受け取るところ、自分にも相手にも忖度しないところ、こだわりのあるところなどなど、明言はされていないけれど発達障害(この名称は好きになれません。痴呆症が認知症に変わったように変わらないでしょうか)なのかな。障害とついていますが、それは相手との間にあるもので本人はあるがまま生きています。小説発表当時は、「ちょっと変わった子」で済んでいたのでしょう。発達障害の特性を知っていれば、もっと別な対処の方法もあったのにと思います。
あみ子は、好きな子が気になってしょうがないし、好きな気持ちを隠しません。気持ち悪いと言われたら「どこが?教えて」と尋ねます。見えないものがわからないので、お母さんの心を想像できず悲しませてしまいます。あみ子だって痛いし傷もつくのに、自分でぺろりとなめると治りそうな強さがあります。
まっすぐだから、ぶつかってしまうあみ子を誰よりも家族が受け止めてほしいのですが、お母さんは努力していたのがぷつんと切れて寝込んでしまいました。演じる尾野真千子さんはこのところ、強くて明るいお母さん像を続けて観てきたせいもあって「え~」と思ってしまった・・・のはこちらの勝手。お父さんにも「え~」、お兄ちゃんがあみ子の代わりに爆発してくれた気がします。自分にもあみ子要素があるのを自覚しているので、これまできっと誰かを傷つけてきたんだろうなと振り返りました。
原作は今村夏子さんのデビュー作。2010年太宰治賞、2011年三島由紀夫賞受賞。2019年には「むらさきのスカートの女」で芥川賞受賞。「星の子」は映画化されています。どれも読後は胸に何かが溜まった感じがしました。あみ子はその後どんな風に大きくなったんだろうと気になります。幸せでいて。(白)


子育ての難しさを改めて感じた作品でした。恐らくあみ子は発達障害なのでしょう。母親は一生懸命にあみ子と向き合いますが、悲しみに対するあみ子の行動がどうしても許せなかった。それはあくまでも悲しんでいる母親を慰めようとしてのことなのだけれど。
あみ子を主体に物語を見ると、本人にとっては本位ではないものの周りの人を傷つけてしまい、どんどん孤立してしまうあみ子のことをみんなが理解してあげてほしいという気持ちになります。しかし、母親を主体に物語を見ると、大分違ってきます。作品の後半で母親とあみ子の関係の特殊性が明らかになり、あみ子が発達障害であっても、それを自分からは言いにくかっただろうことがうかがえました。
最後に父親が下した決断はあみ子主体に考えると酷かもしれません。しかし母親主体に考えればやっと動いてくれたという思いではないでしょうか。父親、もしくは学校の先生がもっと早く適切な対応をしていれば、あみ子も母親も、そしてグレてしまった兄も悲しい思いをしなくても済んだ気がします。(堀)


2022年/日本/カラー/104分
配給:アークエンタテインメント
(C)2022「こちらあみ子」フィルムパートナーズ
https://kochira-amiko.com/
★2022年7月8日(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開
posted by shiraishi at 15:43| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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