2022年07月01日

神々の山嶺(いただき)(原題:LE SOMMET DES DIEUX )

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監督: パトリック・インバート(『大きな悪い狐とその外の物語』) 
原作:夢枕獏(原作)谷口ジロー(漫画)「神々の山嶺」集英社刊
アニメーション制作
声の出演:堀内賢雄(深町誠)、大塚明夫(羽生丈二)、逢坂良太(文太郎)、今井麻美(涼子)

カメラマン・深町誠は「登山家マロリーはエベレスト登頂に成功したのか」登山史上最大の謎を追っている。取材先のネパールで、ずいぶん前に姿を消した孤高のクライマー・羽生丈二と思しき男に出くわした。彼の手にはマロリーの謎の鍵となる遺品のカメラがあった。羽生を見つけ出せば、マロリーの謎が解けるかもしれない。深町は帰国して、羽生の山岳人生の軌跡を追いかける。予期せず彼と深くかかわり、不可能とされる挑戦を目論んでいることがわかる。それは冬季エベレスト南西壁に無酸素単独登頂するというものだった。

夢枕獏さんの作品は「陰陽師」から。映画化には難しそうな作品が多いですね。谷口ジローさんは1991年の「犬を飼う」でぼろ泣きして以来ファン。身体の造形、何気ない動作も骨格が内側にちゃんとあり、丁寧な筆致で程よく書き込まれた背景とドラマが好きでした。フランスのバンド・デシネに影響を受けたと公言していましたが、そのフランスでも人気で、2011年に芸術文化勲章のひとつであるシュバリエ章を受章しています。このアニメの制作にも参加していましたが、2017年に亡くなられて、完成作を見られなかったのが残念です。フランスでは13万人を超える大ヒットを記録しました。
羽生が挑んだ世界各地の山の風景、山にとりつかれてしまったクライマーの狂気ともいえる情熱。アニメだから描けた命がけの登攀シーンが展開していきます。猛暑のこのごろ、涼しい映画館へ出かけて大きなスクリーンで観ていただきたい作品。

この原作は日本で2016年に実写版で映画化されています。『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』(平山秀幸監督)として阿部寛、岡田准一出演。それを観たときもこんなに頑固な人がいたんだと驚きましたが、実際にそういうモデルがいたというのにさらに驚きました。森田勝さん(1937-1980)という登山家で、山への情熱が並外れて強く、周囲との摩擦が多かったこと。金策に苦労したこと、数々の挑戦や挫折などが小説に取り入れられています。(白)


原作者が夢枕獏、マンガ化したのが谷口ジロー。登場人物は現地の人が多少出てくるくらいで、あとは全員日本人。そういう作品をなぜフランスが映画化したのだろうと不思議に思っていたところ、谷口ジローはフランスでものすごく人気のあるマンガ家だということを知りました。制作陣の谷口ジローに対するリスペクトが半端なく、日本の風景描写が完璧です。公衆電話ボックスが並んで設置されているシーンは「そうそう昔はあんな感じだった」とかつての日本が懐かしく思い出されます。
アニメでエベレストの過酷な状況をどこまで描き出せるのか。見る前はそこがとても不安でしたが、まったくの杞憂でした。実写と遜色ないほど雪山の過酷さが伝わってきます。カンヌ国際映画祭でプレミアム上映された後、フランスでは300以上の劇場で公開され、大ヒットを記録。Netflixで全世界に配信されますが、海外では日本だけで劇場上映されるとのこと。ぜひ大きなスクリーンでご覧いただき、エベレストの頂上に立った気分を味わってください。(堀)


プロデューサー ジャン=シャルル・オストレロ氏は、幼い頃から登山と山岳文学に情熱を注いでいたとのこと。谷口ジローさんの漫画を読み終えた時、映画化したいという思いに駆られたそうです。それも、世界初の山を舞台にしたアニメーションをと。願いが叶って出来上がった本作、山の気高さや険しさが、リアルに描かれていて魅了されました。命を賭けてでも登りたい気持ちも、しっかり伝わってきました。
いかに山が美しくても、根性なしの私は、山登りはお金を貰ってもやりたくないことの一つ。映画の中で、「貧乏人には登れない」という言葉が出てきました。エベレストとなると入山料だけでも、100万円以上かかるとか。高い入山料を払ってでもエベレストに登りたいのは、見た目も美しいけれど、なにより世界最高峰だから。かつてエベレストが登山者で混みあっているニュースを見たことがありましたが、コロナ禍で中国もネパールも入山禁止に。エベレストのお陰で生活の糧を得ていた人たちにとっては死活問題です。いつかまた山を愛する世界中の人たちで賑わう日が訪れますように・・・(咲)


ジョージ・マロリーと言えば、「あなたはなぜ山に登るのか?」という問いに対して、「そこに山があるから」と答えた人ということで、「そこに山があるから」という言葉が独り歩きして半世紀余り。私もずっとその言葉で覚えていたら、今回いろいろ調べていたら、それは間違いだったという話が出ていた。本当は「あなたはなぜエベレストに登りたかったのか?」と問われて「そこにエベレストがあるから」とマロリーは答えたというのが正解らしい。登山史によると、1953年5月29日、ニュージーランドのエドモンド・ヒラリーとシェルパのテンジン・ノルゲイが、世界で初めてエベレスト登頂に成功したということになっているが、1924年マロリーたちイギリスの登山隊が挑み、「もしかしたらエベレスト登頂に成功していたのかもしれない」という話があるらしい。そのことは、この小説の日本での実写版『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』の公開時に知った。このアニメーションも、そのなぞに迫る物語に沿って話は進んでいた。アニメと言っても正確な山領の描写に驚いた。登山道具や靴、アイゼンに至るまで、まるで写真のように精密に描かれ、まるでボタニカルアートのよう。この夏、登山をめぐる映画がいくつも公開されるようだけど、これまでシネマジャーナルではたくさんの山岳映画を紹介してきました。下記に山岳映画の記事を参考までに記します。興味のあるかた覗いてみてください(暁)。

2021年/フランス、ルクセンブルク/94分/仏語/1.85ビスタ/5.1ch/吹替翻訳:光瀬憲子
配給:ロングライド、東京テアトル
©️Le Sommet des Dieux - 2021 / Julianne Films / Folivari / Melusine Productions / France 3 Cinema / Aura Cinema
https://longride.jp/kamigami/
★2022年7月8日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開

*シネマジャーナル 山岳映画関連記事
シネマジャーナルHP
2019年 
●東京国際映画祭 『オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁』 ワールドプレミアイベント
●『フリーソロ』  劇場公開日 2019年9月6日
2018年 
●特別記事『クレイジー・フォー・マウンテン
ジェニファー・ピードン監督インタビュー 
2016年 
●『ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~
対談≪韓国の伝説的登山家オム・ホンギル × 野口健≫
●『エヴェレスト 神々の山嶺』完成報告会見
MERU/メルー 原題 Meru
2014年
●『クライマー パタゴニアの彼方へ』デビッド・ラマ インタビュー
●『ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂』公開記念
女性世界初エベレスト登頂者 田部井淳子&エドモンド・ヒラリーの子息 ピーター・ヒラリートークショー

本誌
●2014年 シネマジャーナル91号
★今年、続々公開される山岳映画 古典~最新作まで
『ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂』『K2 初登頂の真実』『春を背負って』『アンナプルナ南壁 7400mの男たち』『クライマー パタゴニアの彼方へ』を紹介。また、1920年代に製作されたレニ・リーフェンシュタールの出演作『死の銀嶺』『モンブランの嵐』
●2011年 シネマジャーナル83号
★山好きから観た山岳映画 『劔岳 点の記』『岳 ―ガク―』『アイガー北壁』『127時間』『ヒマラヤ 運命の山』
posted by shiraishi at 15:26| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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