2022年06月12日

マタインディオス、聖なる村  原題:Mataindios

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(C)LA TROPILLA DE OBRAJEROS EIRL

監督:オスカル・サンチェス・サルダニャ、ロベルト・フルカ・モッタ
出演:カルロス・ソラノ、ナタリー・アウレス、グリセリオ・レイノソ

ペルー、アンデスの山岳地帯にある集落。家族を失った悲しみから解き放たれようと、村の守護聖人サンティアゴを称える祭礼を行うことになる。教会の鍵を開け、祭礼の準備を始める村人たち。その祭礼は、守護聖人を満足させるために、完璧なものでなければならない。祭礼の準備は順調に進むのだが、予期せぬ出来事によって、自身の信仰と、守護聖人による庇護の力に疑問をいだいていく・・・

監督と脚本は、本作が初長編作品となるオスカル・サンチェス・サルダニャ監督とロベルト・フルカ・モッタ監督。2016年、ペルー文化庁が管轄するDAFO(Direcciíon Audiovisuali,la Fonografía y los Nuevos Medios)シネ・レヒオナル映画コンクールに入賞。第22回リマ映画祭に出品され、2018年のベストペルー映画に選ばれた。ペルーの映画界を牽引する映画運動の「シネ・レヒオナル(地域映画)★」が日本初公開。

★ペルーのシネ・レヒオナル(地域映画)
ペルーの首都リマ以外の地域で、その地域を拠点とする映画作家やプロダクションによって制作される映画を指す。娯楽的なジャンル映画から作家性の強いアート映画までタイプは様々だが、いずれの作品もその地域独自の文化や習慣を織り込んでおり、都市圏一極集中ではない多元的なペルー映画を構成している。

教会の鍵穴を覗く人々の顔、そして、鍵穴から見える村の風情。まるで彫刻のような人々の顔、顔、顔・・・ 独特の映像に、とにかく圧倒されました。
劇映画のはずなのに、アンデスの村のドキュメンタリーのように見えます。撮影が行われたのは、オスカル・サンチェス監督の故郷であるワンガスカル。司祭を俳優が演じている以外、出演者はワンガスカルに暮らす村人たち。演じているというより、それぞれの人物が、その人そのもののよう。

マタインディオスとは、村の守護聖人サンティアゴ(イエス・キリストの十二使徒の一人)の別名。サンティアゴは、スペインがイスラーム勢力に支配されていた時代、レコンキスタ(再征服運動)のためキリスト教徒の守護聖人として顕現したという伝説があります。1492年のレコンキスタ完了後、スペインによる新大陸征服が始まり、イスラーム教徒に代わって異教徒である先住民がサンティアゴに踏みつけられ殺されるという図像が描かれるようになったそうです。サンティアゴ・マタインディオスは、キリスト教徒(先住民も含む)の守護聖人であり、先住民を収奪する白人征服者の守護聖人であるという二つの面があります。
このことを念頭に置いて映画を観ると、500年も前に征服者から押し付けられた宗教(カトリック)が根付いている一方で、先住民たちが征服以前から培ってきた伝統が今なお根底にあることが、こうした葛藤をもたらすのだと感じました。
とにもかくにも、凄いものを観た!という興奮が冷めやりません。(咲)


(咲)さんが「劇映画のはずなのに、アンデスの村のドキュメンタリーのように見えます」と書いているのを読んで初めてこの作品が劇映画だと知りました。それほどリアリティに基づいた物語なのでしょう。
ペルー山岳部の慣習とカトリック信仰が入り混じった価値観が描き出されます。その土着感が隠れキリシタン信仰を思い出させました。隠れキリシタンは本来のカトリック信仰とは別物になってしまったと言われています。このアンデスの村はどうなんでしょうか。
そもそも信仰は昔のままということはないわけで、キリスト教からカトリックとギリシア正教という2つの宗派が生まれ、さらに16世紀には宗教改革が起こり、キリスト教はカトリック、プロテスタント、ギリシア正教の3つに分断されました。イギリスではヘンリー8世の離婚問題から何と国王主導でイングランド国教会が成立しています。時代とともに、結果として生活に合わせるように信仰の在り方は変わってきたわけで、そこには人々の心に溜まった澱のようなものがたくさんあったことと思います。そして、この作品からもそんな澱がそこかしこに感じられます。(堀)


ペルー、アンデスの山岳地帯にあるワンガスカルに暮らす村人たちの集落。家族を失った悲しみから解き放たれようと、村の守護聖人サンティアゴを称える祭礼を行う。聖人を称えるための歌を練習し、マントを作り、ミサの練習をする。そして当日、司祭が守護聖人を称える説教をする。歌を歌うのにハープが使われていたのが珍しいと思った。そして聖水は、なんとサボテンから取り出した水。水の乏しいこの山岳地帯ではサボテンから水を得ているのだった。モノクロ風の映像だけど、中に赤など少し色がついている。これはどのように撮るのだろうか。
スペインによるインカ帝国の征服から約500年。約300年のスペインの植民地時代が続き、独立をしたけど、スペインに押し付けられたキリスト教は残った。土着の生活、文化や伝統と折り合いながらキリスト教が根付いているのだと思った(暁)。


2018年/ペルー/ケチュア語・スペイン語/77分
配給:ブエナワイカ
公式サイト:https://www.buenawayka.info/mataindios
★2022年6月18日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開



posted by sakiko at 19:21| Comment(0) | ペルー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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