2022年06月05日
さよなら、ベルリン またはファビアンの選択について 原題:Fabian oder Der Gang vor die Hunde 英題:Fabian - Going to the Dogs
監督:ドミニク・グラフ
原作:エーリヒ・ケストナー「ファビアン あるモラリストの物語」(みすず書房)
出演:トム・シリング(『コーヒーをめぐる冒険』『ピエロがお前を嘲笑う』『ある画家の数奇な運命』)、ザスキア・ローゼンダール(『さよなら、アドルフ』『ある画家の数奇な運命』)
1931年、ドイツ。32歳のファビアンは、作家を志してドレスデンから首都ベルリンにやってきた。昼間はタバコ会社のコピーライターとして働き、日が暮れると裕福な親友ラブーデと芸術家たちの溜まり場や売春宿の立ち並ぶ界隈をさまよい歩く日々。
ある日、ファビアンは映画会社の著作権契約部門で働く25歳のコルネリアと出会い、たちまち恋に落ちる。恋を手に入れたものの、ファビアンは失業してしまう。家賃は溜まっていたが、退職金の185マルクで、女優を夢見るコルネリアに贈ろうとワンピースを買い求める。
ファビアンはコルネリアと共にラブーデの父の別荘に遊びにいく。ラブーデは金持ちの放蕩息子だったが、世界革命を夢見る運動家でもあった。
ドレスデンからファビアンの母がやってくる。失業したことは隠したまま、コルネリアを母に紹介する。3人で出かけたレストランで、大物監督マーカルトを見つけたコルネリアは、ファビアンたちのテーブルに戻ることはなかった。マーカルトに気に入られ、コルネリアは女優への道を歩み始める。
ファビアンのもとに、ラブーデの父が訪ねてくる。ラブーデがデモ行為で逮捕され、釈放後に姿を消したというのだ。コルネリアに去られ傷心のファビアンは、ラブーデを捜し歩く。そして、知るラブーデの思いもかけない姿・・・
故郷ドレスデンに帰ったファビアンは、雑誌を飾るコルネリアの姿を見る。なんとかコルネリアと連絡を取り、日曜日の4時に思い出のカフェ・シュバルテホルツで会う約束をする・・・
ひたひたとナチスの足音が聞こえてくる1931年のベルリンを舞台に、青年ファビアンの恋と惑いの日々を描いた物語。
とあったのですが、冒頭に出てくるのは、立派な現代の地下鉄の駅。そこから一気に1930年代初頭のワイマール共和国に誘われます。
現代と過去を繋ぎたいと思った監督の思いを公式サイトでご覧ください。トム・シリングがファビアン役を受けてくれなければ、この映画はできなかったということも!
https://moviola.jp/fabian/#director_inner
とても素敵だなぁ~と思ったのが、ベルリンにファビアンを訪ねてきたお母さんがドレスデンに帰るときの場面。お母さんは、食べ物を詰めた箱に20マルクを忍ばせてファビアンの家をあとにします。一方、ファビアンは、列車に乗り込む母を抱きしめながら、バッグに20マルクを忍ばせます。差し引きゼロなのですが、母と息子がそれぞれを思う気持ちに、じ~んとさせられました。コルネリアとファビアンの恋の行方は、ぜひ劇場で。これまた心に沁みます・・・ (咲)
ファビアンの退廃的な生活ぶりに、てっきり学生かと思いきや、実は勤め人。すると案の定、会社には遅刻するし、仕事には真剣みが感じられない。作家志望はわかるけれど、社会人としてどうなんだろう。と考えるのは私が昭和の人間だからかもしれない。
私事だが、子どもが4月から社会人となった。入社前研修として年明けに3冊のテキストが送られてきたが、そこには「規則正しい生活をし、遅刻をしないよう余裕を持って出社しましょう」、「朝、出勤したら、元気に『おはようございます』とあいさつしましょう」といったことが書かれていて驚いた。これではまるで小学校に入学したばかりの子ではないか。
ところがいざ入社してみると試用期間にも関わらず、遅刻してくる人が何人もいるらしい。コロナ禍なので飲み会は自粛するようにと言われているにも関わらず、研修グループで飲みに行っているところもあるとか。
話は長くなったが、バブルが弾けてから生まれ、出口のない不況に明るい未来がまったく描けないイマドキの若者は私なんかよりもよっぽどファビアンに近いのかもしれない。冒頭、現代のハイデルベルガー・プラッツ駅から1930年代初頭のワイマール共和国へとカメラを移動させるところをみると、ドイツの若者も日本と変わらないということなのだろう。
そんなファビアンの恋物語はほろ苦い展開をみせる。好きという思いだけでは上昇志向が強い女性を幸せにしてあげられない。それでも彼女のために後押ししてあげるファビアンが痛々しくて母性本能がくすぐられる。トム・シリングはそういう役どころが本当にうまい。
ラストは衝撃的だったが、思い返してみれば、伏線はちゃんと張られていた。長尺ではあるけれど、ぜひ2度見てほしい作品だ。(堀)
<公開記念トークイベント開催決定>
日時:6月11日(土)10:20の回 上映後 ※予告なし、本編からの上映
ゲスト:マライ・メントラインさん(独・和翻訳家/TVプロデューサー)
第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品
2021年ドイツ映画賞最多ノミネート 主要3部門受賞(作品賞銀賞、撮影賞、編集賞)
2021年/ドイツ/178分/スタンダード
字幕:吉川美奈子
配給:ムヴィオラ
公式サイト:http://moviola.jp/fabian/
★2022年6月10日(金)よりBunkamura ル・シネマ他全国順次公開
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