東京 K's cinema 2022年5月28日(土)より公開 連日10:20〜
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暦応年間(1338-1341)に武士たちによって始められたと言われる三重県桑名市多度町の奇祭・多度祭。多度町は人口約1万人の町。
元亀二年(1571)、織田信長の軍勢により多度大社が焼き落とされ、それからおよそ30年中断されたが、それ以外は戦時中も一度も休まず続けられてきたと伝えられている。
多度町内の6地区がそれぞれ馬と騎手を選出し、毎年5月4〜5日で各地区3回づつ、馬と騎手が人馬一体となり約2メートルの崖を昇り越えられるかに挑戦する(上げ馬神事)。命がけの祭である。この祭りはコロナ感染拡大防止のため2020、2021、2022と休止中である。
この多度祭に携わる若者たちの姿を2016年から2018年にわたって追ったのは多度町出身の伊藤有紀監督。これまで、『まちや紳士録』『人情噺の福団治』などを撮っている。
多度祭は、馬と人間、人馬一体の壁への挑戦である。それに向けて、10代から20代の若者たちが集まり、騎馬の練習をする。その光景が幾度となく描かれる。都市化の中で馬を調達するのはどうしているのかと思ったら、そういう費用を持ってくれる篤志家の方がいて、馬自体は牧場とかで飼われているのを祭り用に借りてきて、この行事に向けて調教しているよう。
ただ、日常的に馬と接していないので、なかなか慣れるまでが大変そうだった。そして馬に乗って全速力で走り、最後は急坂と2mくらいの崖を越えるという難しいことに挑戦する。タイミングと馬の操作術を駆使できて、それは可能で、なかなか皆さん越えられない。何度も映されていたけど、ぴたりとそれが合ったのは1回くらい。越えられなくて悔し涙を流す若者の姿に、私も思わず涙。
馬と人間が走り抜けつつ何かに挑戦するという行事としては福島の相馬野馬追が有名だが、こちらの多度祭も勇壮な行事である。やはり祭りの時にはたくさんの人たちがやってくる。長く続く祭りではあるけど、続けていくには参加する若者たちの数を維持できるかが鍵。この地区の若者たちはあまり変化がなく、一定数の若者がいるというのが安心なのだろうか。上げ馬の最終地点、崖の直前の場所では、かつての若者たちも駆り出され守りを固めていたけど、以前に比べたら参加する若者の数が減っているのだろうか。
多度町は名古屋市まで電車で約40分という便利な立地で、名古屋のベッドタウンということで町に引っ越してくる人は少なくないけど、それらの人々は町内の店舗を利用したり、町内会などのコミュニティに参加することは少ないそう。少子高齢化も進み祭りを維持するのが大変そう。それは都市周辺の町が抱えている共通した状況かもしれない。多度祭の時期になると、町を離れ進学・就職していた若者たちや、町に残って暮らしていた若者たちが久しぶりに再会し、ともに祭に従事するという。そしてまた、祭が終わるとそれぞれの場所に帰っていく。一年に一回、たった数日間、町はかつての賑わいを取り戻す。
私は中学校時代の恩師が、山梨県の丹波山村(奥多摩湖の奥)に住んでいて、先生に頼まれ、そこの冬の祭り(お松引き)と夏の祭り(ささら獅子舞)の写真を撮りに行ったことがあるが、ここもかなり過疎の村になり祭りの維持が厳しい状況。でもこの祭りの時には村を離れた人々が帰ってきて祭りを盛り上げていた。どこも地方の現状は近いのかもしれないと思った(暁)。
おれらの多度祭 公式HP
監督・撮影・構成・編集・語り 伊藤有紀
出演 多度町小山地区のみなさん
2020/日本/ドキュメンタリー/カラー/60分
配給・宣伝 オフィスアリガト
後援 三重県
2022年05月25日
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