監督::松井至
共同監督:ヒース・コーゼンズ
プロデューサー:平野まゆ
コープロデューサー:ポール・カデュー
撮影:ヒース・コーゼンズ
編集:ハーバート・ハンガー
サウンドミキサー:高梨智史
カラーグレーディング:齋藤直彦
音楽:テニスコーツ
コーダ(CODA:Children Of Deaf Adults):耳の聴こえない親から生まれた、耳の聴こえる子どもたち。1980年代のアメリカで生まれた造語。
家では親と手話で、外に出れば口話で話す彼らは、学校では“障害者の子”扱い、ろうからは「耳が聞こえるから」と距離を置かれる。本作は、コーダという言葉が生まれたアメリカでコーダ・コミュニティを取材した初めての長編ドキュメンタリー。
2015年、松井至監督は、東日本大震災の番組制作の過程で、津波から生還したろうの人々を訪ねる。そこで知ったのは耳の聴こえる子供たちが津波からろうの親を救ったという事実。番組のレポーターで手話通訳者のアシュリーから、CODA:Children Of Deaf Adultsという言葉を初めて聞かされる。アシュリー自身もコーダで、「ろうの世界と聴者の世界のあいだで育ち、居場所を失い、ストレスに苛まされる」と気持ちを明かされ、コーダのドキュメンタリーを作ってほしいと言われる。
松井監督は、さっそくアメリカ中西部に住む10代のコーダたちを訪ねる。
ろうの世界に慣れ親しんで育ったナイラは、学校になかなか馴染めなくて「デフ(ろう)になりたい」と悩む。
ろうのシングルマザーに育てられたジェシカは、母親の通訳を担ってきたが、大学進学で家を出ることになり葛藤する。
MJは、コーダである自分の人生を手話で物語ることで肯定し友達を作ろうとする。
そんな聴こえる世界にもろうの世界にも居場所がなく悩む彼らが、一年に一度の“CODAサマーキャンプ”の時だけ、同じ立場の子供たちと共に過ごして、ありのままの自分でいられる姿も目撃する・・
代々、ろうの家系のナイラの一族が、手話で豊かに会話する姿も映し出して、ろうにはろうの世界があることを見せてくれます。どちらの世界も身をもって知っていることは、それだけ感受性も豊かな心を持てると思うと同時に、葛藤もわかります。
聴者として生まれたアシュリーが妊娠して、生まれてくる子がろうかもしれないと医者から言われた時の戸惑う気持ちも身に沁みます。
行きついた「自分は自分、ありのままでいい」という気持ちは、コーダだけでなく、私たちの誰しもに通じるものでしょう。
フランス映画『エール!』のリメイクの『コーダ あいのうた』(2021年、シアン・ヘダー監督、アメリカ・フランス・カナダ合作)がアカデミー賞で作品賞、脚色賞、助演男優賞(トロイ・コッツァー)の3冠に輝き、「コーダ」という言葉も認知されるようになりました。
2015年からコーダを追い続けてきた松井監督にとっても思いがけない朗報ではないでしょうか。(咲)
「CODA」という言葉を初めて聞いたのは、イギル・ボラ監督が2015年の山形国際ドキュメンタリー映画祭でアジア特別賞を獲った『きらめく拍手の音』(2014)だった。聾唖の両親を描いた明るい家族の話。2017年に日本公開もされたのに知らなくて、去年(2021年)正月、ポレポレ東中野で上映されていたので観にいった。「CODA」である自分と明るい両親、弟との生活を撮ったものだったけど、子供のころから両親の通訳をしていて、それなりに苦労はあり、それも描かれていた。そして『Coda あいのうた』も聾唖の両親と兄の家族の元、「CODA」を務める女の子の話で、自分がやりたいことと両親を助けたいという思いとの間で葛藤する。でも両親の理解で歌の世界に旅立つ少女の物語が描かれ感動的だった。
この『私だけ聴こえる』では、そういう「CODA」の少年少女たちのキャンプが描かれ、葛藤を抱える彼らの思いが共通にあるということが描かれていた。それにしても、こんなにもたくさんの若い子たちが聾唖の家族をかかえ葛藤を抱えて生きていたんだと改めてしらされ、そういう思いがわかる仲間との出会いが、彼らの気持ちを解放してくれるということが描かれる。自分らしくいられる場所がこのキャンプ。私は私でいいと納得し、自分の居場所をみつけて帰っていく。私の身近にそういう人がいたら、私ができることは何だろうと考えさせられた(暁)。
*スタッフ日記
2020年最後に観た映画『越年 Lovers』と2021年最初に観た映画『きらめく拍手の音』
http://cinemajournal.seesaa.net/article/479577610.html
2022年/日本/カラー/DCP/5.1ch/76分
配給:太秦
公式サイト:https://www.codamovie.jp/
★2022年5月28日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
【関連する記事】