監督:シャノン・サービス、ジェフリー・ウォルドロン
出演:パティマ・タンプチャヤクル、トゥン・リン、チュティマ・シダサシアン(オイ)
あなたの買っているシーフードやペットフードは「海の奴隷」が捕ったものかもしれない。
ゴースト・フリートは幽霊船の意味。この漁船ではミャンマー、ラオス、カンボジアなどから「良い仕事がある」と騙され、または拉致されてタイの漁業会社に集められた人々が働いている。実際は監禁されて過酷なタダ働きをしている奴隷労働者である。IUU漁業と呼ばれ(*)、タイのバンコクでNGO「労働者推進ネットワーク(LPN)」を立ちあげたパティマ・タンプチャヤクルや、自身も11年間奴隷労働した経験のあるトゥン・リンたちが救出にあたっている。彼らは脅迫など数々の困難に直面しながら、インドネシアの離島に逃げた男性たちを救出するために命がけの航海へと漕ぎ出していく。
タイは世界有数の水産国で、日本のタイからの水産物輸入高は世界第2位だそうです。日本は海に囲まれて豊かな漁場に恵まれているはずですが、安価なタイからの輸入品を歓迎してきたのでしょう。その陰でこんなにひどい搾取が行われていたとは全く知らずにいました。白身魚のフライなどの冷凍品が安いのは、それだけの理由がありました。反省しきりです。
人身売買業者によって、奴隷にされ故郷に帰れない人々を、パティマさんたちは探し、助けてきました。2015年3月から9月までの6ヶ月間にインドネシア沖の島から5000人以上が救出され、出身国に帰国しました。少年のときに連れ去られた息子を必死で探していた親御さんとの再会場面ではもらい泣きしてしまいました。
夫のソンボンさんと愛息を置いて、遠くの島へと船を走らせるパティマさんは風格ある肝っ玉母さんという感じです。2017年ノーベル平和賞にノミネートされました。受賞は”核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)”でしたが、個人的にはパティマさんにあげたい。(白)
年齢のせいでしょうか。肉よりも魚を選ぶことがめっきり増えました。でも魚って切り身で買うと高いんですよねぇ。魚だけでなく海老も。揚げるだけになっている冷凍品は品物によってはすごく安くて、つい手が伸びてしまうのですが、安さのカラクリがこの作品で分かりました。
それにしても酷い話です。本人の意思とは関係なく拉致して働かせる。ありえません。しかも船上なので逃げられない。給油のときとかに逃げ出せばと作品を見るまで思っていましたが、全ては大きな船が運んでくる。陸地のカケラも見えない海の上で何十年と延々と漁が続けられる実態に闇の深さが伝わってきます。
救出活動を続けるパティマさん。闇社会から抹殺される可能性もあるはず。それでも活動を止めない彼女たちに私たちができることは安い魚に手を出さないということでしょうか。(堀)
私たちの生活と密接に繋がりながらも、私たちが知ることがなかったシーフード産業の闇に迫る驚くべき衝撃の事実を知った。奴隷労働5年、7年、12年…。信じられないけど現代も奴隷が存在し、東南アジアの海で「海の奴隷たち」が私たちの食卓に並ぶ魚を捕っている。数万人も存在するといわれ、ゆっくり眠ることも許されず、長時間漁船で働かされる男たちの過酷な実態が描かれる。
日本は決して無関係ではない。私自身、スーパーで魚を買う時に、なぜ安いのか考えずに、なるべく安いものを買おうとしてきた。労働に対する賃金が支払われず働かされていた人たちがいての安い魚だったんだ。これはぜひ、魚の輸入に携わる人たちやスーパーで魚を仕入れる人に観てほしい。でも、そういう日本人は実態を知っているのかもしれない。それでもこれを観たら、日本人として考えるところはあると思う。
パティマ・タンプチャヤクルさんたちの命懸けの活動もすごいけど、自身11年間奴隷労働し、タイ語、インドネシア語を繰るミャンマー人のトゥン・リンさんも、脅迫など数々の困難に直面しながらパティマさんたちに協力する。彼がいるから彼女たちの救援活動も進められるのだと思う(暁)。
*IUU漁業とは”Illegal, Unreported and Unregulated”漁業=「違法・無報告・無規制」に行なわれている漁業のことで、いわゆる密漁だけでなく、不正確および過少報告の漁業、旗国なしの漁船による漁業、地域漁業管理機関(RFMOs)の対象海域での、認可されていない漁船による漁業も含まれます。
2018年製作/アメリカ/90分
配給:ユナイテッドピープル
特別協力:WWFジャパン
(C)Vulcan Productions, Inc. and Seahorse Productions, LLC
https://unitedpeople.jp/ghost/
★2022年5月28日(金)よりシアター・イメージフォーラム他にて全国順次ロードショー