2022年05月15日

ドンバス  原題:Донбасс 英題:Donbass 

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©︎MA.JA.DE FICTION / ARTHOUSE TRAFFIC / JBA PRODUCTION / GRANIET FILM / DIGITAL CUBE

監督・脚本:セルゲイ・ロズニツァ(『国葬』『粛清裁判』『アウステルリッツ』
出演:ヴァレリウ・アンドリウツァ、ボリス・カモルジン、イリーナ・プレスニャエワ、スヴェトラーナ・コレソワ、セルゲイ・コレソフ、タマラ・ヤツェンコ、トルステン・メルテン、リュドミーラ・スモロジナ、セルゲイ・ルスキン

ウクライナ東部ドンバス地方。
ロシアと国境を接するこの地域にはロシア系住民が多く住んでいる。2014年、親ロシア派勢力「分離派」が一方的にウクライナからの独立を宣言し、実効支配。ウクライナ系住民との分断が深まり、ウクライナ軍との武力衝突が日常的に起きている。
本作は、内戦状態のドンバスを舞台に、ウクライナ出身のセルゲイ・ロズニツァ監督が⾵刺を織り交ぜながら描いた劇映画。2018年カンヌ国際映画祭《ある視点》部門監督賞受賞作品。

映画は、ロシアとウクライナの複雑なしがらみを理解するため、ドンバス地方での実話に基づく13のエピソードで構成されています。
冒頭、厚化粧を施す女性。実は、フェイクニュースを撮影するために集められたクライシスアクターと呼ばれる俳優たち。続いて、次々と下記の物語が連なります。
仕組まれた市議会襲撃事件
仕組まれた産婦人科物資横領事件
分離派占領区に帰省する男性住民の携帯と体を調べる検問所
ドイツ人記者が見た前線の様子とロシア正規軍の影
地下シェルターでフェイクニュースに怯える住民
占領区政府に近寄ろうとするマイナーな宗教
略奪行為を働いた分離派兵士への懲罰
住民の財産を略奪する分離派地域警察
リンチされるウクライナ義勇兵の捕虜
分離派占領区の結婚セレモニー (迫力ある花嫁と、物腰柔らかい新郎は本物の夫婦)
両軍による激しい交戦
冒頭のクライシスアクターたちが登場し、新たなフェイクニュースの撮影・・・

映画を製作した当時、実話に基づいたとはいえ、作った物語だったものが、今、毎日、ニュースで流されている現実と重なります。
携帯の履歴をみて、親ロシアか反ロシアかを見定めることも現実に行われていること。
反ロシアを掲げていた老いたウクライナ義勇兵がリンチされる姿には、いたたまれない思い。
こうした複雑な土地では、どちら側という意思をはっきりさせないで、身を処することが生き延びるコツだと思い知らされます。携帯には何も残さないことが肝心ですね。

旧ソ連の全体主義とロシアの独裁政治体制に反対する作品を数多く発表し、ロシアの本質を語ってきたセルゲイ・ロズニツァ監督。
先⽇、包括的なロシア映画のボイコット運動に異論を唱えた事で、ロズニツァ監督はウクライナ映画アカデミーから除名処分を 受けました。このことに対し、ロズニツァ監督は3⽉14⽇に、「ロシアの映画⼈の中には、公然と戦争を⾮難し、政権に反対を表明している⼈たちがいます。ある意味、彼らも私たちと同じようにこの戦争の犠牲者なのです」と異論を唱え、「このような集団責任をロシア映画コミュニティ全体に課すことがないよう、今の社会はより知的で洗練されたものであると願う」と表明しています。

これは映画に限らず、今、起こっている対ロシア制裁の動きにも同じことがいえるのではないでしょうか。制裁は、ロシアの庶民を苦しめるだけでなく、制裁を加えた側の国の庶民にも弊害が跳ね返ってきます。今、世界がするべきことは、戦争をやめさせることであるはずです。ウクライナに武器支援しても戦争を煽るだけで、戦争を終わらせることはできません。
映画『ドンバス』は、戦争が土地や建物だけでなく人々の心をも破壊するいかに愚かなものであるかを教えてくれます。 ロズニツァ監督の思いが、戦争を引き起こしている権力者に届くことを祈るばかりです。(咲)



※ドンバス戦争について
2014年、ロシアとの接近を図る政府に対する反政府デモから始まったマイダン⾰命で、親ロシア 派だったヤヌコーヴィチ⼤統領が失脚すると、ロシアはウクライナの領⼟であるクリミア半島を ⼀⽅的に併合し実効⽀配する。同時期にウクライナ東部ドンバス地⽅(ドネツィク州とルハンシ ク州)に、ロシア軍の⽀援を受ける「分離派」が独⽴を宣⾔し、ウクライナ軍との軍事衝突が勃 発する。ウクライナはナチス・ドイツに占領された時期には⻄部地⽅を中⼼にして反ソ連の動き が⾒られた⼀⽅、東部地⽅は親ロシア派の住⺠が多いなど、国内の歴史的経緯や地域対⽴は複雑 であり、ロシアの介⼊も相まって分断は深まっていった。


2018年/ドイツ、ウクライナ、フランス、オランダ、ルーマニア/ウクライナ語、ロシア語/121分
日本語字幕:守屋愛
配給:サニーフィルム
公式サイト:https://www.sunny-film.com/donbass
★2022年5月21日から渋谷・シアター・イメージフォーラムにて2週間限定先行公開
 6月3日から東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、その他全国順次ロードショー



◆ロズニツァ監督最新作 2作品 シアター・イメージフォーラムにて公開
◉『Babi Yar. Context』(9⽉下旬)
第⼆次世界⼤戦中にウクライナで起きた、ユダヤ⼈⼤量虐殺事件の歴史を再構成するアーカイヴ映画。 (2021年カンヌ国際映画祭特別上映作品 / ルイユ・ドール 審査員特別賞受賞)
◉『Mr. Landsbergis』
リトアニア⾰命の指導者ヴィータウタス・ランズベルギスの証⾔ドキュメンタリー(2021年アムステ ルダム国際ドキュメンタリー映画祭最優秀作品賞、最優秀編集賞)
両作の配給:サニーフィルム



posted by sakiko at 16:11| Comment(0) | ウクライナ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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