2022年05月08日
グロリアス 世界を動かした女たち 原題:The Glorias
監督:ジュリー・テイモア
脚本:ジュリー・テイモア、サラ・ルール
出演:ジュリアン・ムーア、アリシア・ヴィキャンデル、ティモシー・ハットン、ジャネール・モネイ、ベット・ミドラー
グロリア・スタイネム(1934年3月25日、アメリカ・オハイオ州生まれ)
本作は、アメリカの女性解放運動を語る上で欠かすことのできないグロリア・スタイネムと、その活動家仲間たちの物語。
原作は、グロリア・スタイネムの自伝『My Life on the Road』(2015年)。
大学卒業後、インドに留学したグロリア。列車の三等車に乗って地方に行き、低カーストの女性たちが虐げられている実態を目の当たりにする。アメリカに帰り、ニューヨークに行きジャーナリストを目指すが、女性であることを理由に社会的なテーマを書かせてもらえない。グロリアは「プレイボーイ・クラブ」に自らバニーガールとして潜入。その内幕を記事にして暴き、女性を商品として売り物にする実態を告発する。徐々に実績を積むが、公民権運動のデモの取材に行くのを編集長から反対されるなど、なかなか思うようにはいかない。ようやく、テレビの対談番組に出演し、徐々に女性解放運動の活動家として知られ始める。40代を迎えた頃には仲間たちと共に女性主体の雑誌「Ms.」を創刊。全米各地の女性たちに受け入れられていく・・・
「グロリアスというから何の映画かと思ったら、グロリア・スタイナムの話なんだ。それなら私が書かなくちゃ」と、若いころから女性解放運動に関心を持っていたシネジャの暁さん。私はといえば、女性解放運動に背を向けて過ごしてきたので、グロリア・スタイナムの名前は、本作を観て初めて知りました。お恥ずかしい。
そんな私が、1983年頃に労働組合の婦人部長をさせられたことがありました。思えば、「女性差別撤廃条約」批准を前に、会社でも男女雇用機会均等法に沿った人事制度の改正(女性にとっては実際には改悪)をしようとしていて、私ならはむかわないと思っての人選だったと思われます。(御用組合ですからね!) それでも、女性社員の意見を吸い上げて「Voice of Ms.〇〇(会社の略称)」を何号か発行しました。私は30歳の大台に乗ったところで未婚。当時としては行き遅れ。そんな時に知ったのが、MissでもMrsでもない、Ms.という敬称。未婚既婚の別がわからなくていいなと思って使ったのですが、グロリアたちが作り出した言葉で、創刊した雑誌の名称にもなったことを知ったのも本作を通じてのことでした。
実は、本作に興味を持ったのは、グロリアが女性解放運動の先駆者であるということよりも、大学卒業後インドに留学し、その時に目にした女性たちの悲惨な状況がジャーナリストになる原動力だったという部分でした。実際にインド(ウダイプールらしいです)で撮影した場面には心躍りました。
映画は、グロリアの少女時代、インド留学時代、記者として駆け出しの頃、雑誌「Ms.」を創刊し、仲間たちと女性解放運動にまい進する40歳以降、さらに父親や母親との関係、66歳の時に結婚したこと・・・と、様々な話が目まぐるしく交錯して進んでいきます。
捉える問題も、仕事のこと、中絶の是非、人種差別と様々。それを147分という中で描いているので、女性解放運動についてというより、グロリア・スタイネムの人生についての物語と割り切ったほうがいいかもしれません。
それでも、女性を取り巻く環境が、グロリアはじめ様々な女性たちが地道に活動を続けてきたお陰で、少しずつ改善されてきたことはずっしりと伝わってきました。「女性解放運動はマラソンではなくリレー」という言葉が心に残りました。
「先のことがわからないのはワンダフル」というグロリアのお父様の言葉も!(咲)
シネマジャーナル本誌105号の発行を控え、原稿書き、編集作業が佳境の4月初旬、どこかの試写室でこの『グロリアス』のポスターをみつけ、グロリア・スタイネムと仲間たちのことを描いた作品が公開されるということを知りましたが、ほんの数日の差で本誌はすでにページが埋まっていてこの作品を入れることができずすごく残念でした。そして、オンラインでの試写状が来ていたのを知ったのは、さらにその後。しかし、この映画を観ている時間もなく、やっと公開間際に観ることができました。
グロリア・スタイネムのことは、1970年代、日本のウーマンリブ運動に参加している人たちの間では「日本には田中美津、アメリカにはグロリア・スタイネムがいる」と言われていました。ウーマンリブ運動は女性たちの地位も低く、生き方が今より自由でなく、その解放を目指して起こった運動でした。もちろん、その前の市川房枝さんたちの女性解放運動もありましたが、あらたな女性の生き方を目指す運動でした。
この映画の中でもアメリカのウーマンリブの女性たちが男性ジャーナリズムに叩かれている状態が描かれていましたが、日本でもウーマンリブの女性たちの行動の趣旨がちゃんと伝えられず、行動の突飛さの部分だけが伝えられ、私自身、最初は「この人たち何しているんだろう」と思っていました。たとえば、「身体の拘束から解放されるためにブラジャーを燃やす」という行動があり、メディアでは「ブラジャーを燃やす」というところだけが強調されていました。「ブラジャーは女性を拘束する象徴」として拒否するということのデモストレーションだったのに、その意味について正確に伝えたメディアというのはほとんどなかったのではないかと思います。1970年頃でした。そのおかげで、「何やってるの、この女たちは」と、彼女たちと直接知り合う1975年くらいまで思っていました。彼女たちの真意を知って、大いに共感した私でした。これは、元々、アメリカでの1960年代からのウーマンリブ運動の中で「ブラジャーは女性を拘束する象徴」とみなす女性たちが「ノーブラ」を始めたというのがあるようです。なので、この映画のグロリア・スタイネムについても詳しいことは知らず、「プレイボーイ・クラブ」にバニーガールとして潜入し、その記事を書いたこととか、雑誌「Ms.」を創刊したことぐらいしか知らなかったのですが、この映画を観て、彼女の生きてきた道を知りなるほどと思いました。
この映画でも何度も出てきたのが、「結婚しているか、いないか」「子供がいるか、いないか」。それが「女性の信用格付け」の高低をはかる基準だったことが何度も描かれていました。でも実際はまやかしで、アメリカだけでなく世界中の女たちが結婚して子供がいようといまいと、女性は自分のやりたいことをすることができず我慢して生きていたのです。『メイドイン・バングラデシュ』でも「結婚していても結婚していなくても女性の地位は低い」と描かれていました。1970年当時は日本でも「結婚することが女の幸せ。結婚することが女の生きる道」と押し付けられ、独身女性は「行き遅れ」などと言われていたのです。今では、そういうふうには表立っては言われなくなりましたが、そういうのもグロリアさんたちや日本のリブたちの運動があったからこそです。私も「行き遅れにならないうちに結婚しなさい」なんて、親や親戚からは言われましたが、家制度、家父長制の強い日本の結婚制度には懐疑的でした。
『新しい女性の創造』を書いたベティ・フリーダンのことも出てきましたが、ベット・ミドラーが演じたベラ・アプツーグという人は知りませんでした。数年前、『RBG 最強の85才』『ビリーブ 未来への大逆転』という映画がありましたが、この題材になったアメリカの連邦最高裁判事を27年務めたルース・ベイダー・ギンズバーグさんのことも知りませんでした。
そういえば、後半グロリアさんは大きなサングラスをかけていましたが、あれが彼女のトレードマークでした。また、父親と正反対といいつつ似た者同士という部分も、私もそうだったと思いました。父親の生き方に反発しつつ、世間に対する行動など似ているところもあるなあ思っていたのを思いだしました(暁)。
2020年/アメリカ/英語/147分/カラー/ビスタ/5.1ch
字幕翻訳:髙橋彩
提供:木下グループ 配給:キノシネマ
© 2020 The Glorias, LLC
公式サイト:https://movie.kinocinema.jp/works/theglorias
★2022年5月13日(金) kino cinéma横浜みなとみらい他にて全国順次公開
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