2022年04月23日

アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ  英題:BAD LUCK BANGING OR LOONY PORN

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© 2021 MICROFILM (RO) | PTD (LU) | ENDORFILM (CZ) | K INORAMA (HR)


監督・脚本:ラドゥ・ジューデ
出演:カティア・パスカリウ、クラウディア・イェレミア、オリンピア・マライ、ニコディム・ウングレアーヌ、アレクサンドル・ポトチェアン

ルーマニア、ブカレスト。名門校の歴史教師エミは、コロナ禍の街をさまよい歩いていた。夫とのプライベートセックスの動画が、パソコンよりネットに流失してしまい、生徒や親の目に触れて問題となり、保護者会が開かれることになったのだ。その前に校長宅に行くと、寝たきりのお婆さんが垂れ流した糞尿の処理に皆が追われていて、事情説明するどころじゃない。さらに、街をさまよい、夜、学校の中庭で保護者が待ち受けているところに着くと、正面に座らされる。問題の動画を観ていない者もいるからと、動画が流される。立ち上がって動画を覗き込む男性もいる。そして、まるで弾劾裁判のような保護者会が始まる・・・

あらすじを簡単に書いてしまえば、こんな流れなのですが、この映画、あちこち寄り道して、実に面白い構成でできています。

プロローグ 
ベッドの上でセクシーな下着姿の女性が男を誘う。ホームビデオのような映像。
「皆さん、検閲版だよ」と、画面が隠される。男女の喘ぎ声だけが聞こえてくる。「殺 人シーンはOKで、フェラはNG?」「米アカデミー賞で一票を!」「見られなくて残念!」「検閲=金」と矢継ぎ早にコメントが映し出される。
(というワケで、肝心な問題の場面は、みられません!)

第一部:一方通行の通り  
マスクをしてコロナ禍のブカレストの街をさまよい歩くエミ。市場で花を買う。教会の鐘が鳴る。トラムの走る大通り。町の喧騒。工事中の建物だらけ。本屋。ソーシャルディスタンスを保つため、外で待つ人。
校長の家を訪ねる。寝たきりのお婆さんが垂れ流したと皆が慌てふためいている。事情説明もそこそこに失礼する。
モールのおもちゃ売り場へ。レジで「食事券で全部は買えない」とぶつぶつ言いながら計算する女性。レジは一つしかなくて、待たされる。
歩道に止めている車に文句をいうと、汚い言葉を返す車の持ち主。
夫から「誰かが保存していた動画を再アップした」と電話。ポルノ教師と書かれているらしい。
本屋で、エドガー・リー マスターズの詩集を求める。「コロナの時代にぴったり」と。
「チャールズ・レズニコフはどう?」と本屋。「19世紀後半の恐ろしいことが書かれてるよ」と。
戸外のカフェで休憩。若者たちが、神風特攻隊で文系の若者たちが使い捨てにされたと話している。
大きなソフトクリームのオブジェが道端に並んでいる。
1918年の年号と兵士の絵が壁に。
シネマトフラフィ・ブカレストの建物を映して、第一部終了。


第二部:逸話 兆候 奇跡の簡易版辞書  
AからZまでの言葉を映像で綴る。
始まりは、8月(August)23日の連合国軍事パレード。
「軍隊」国民制圧の手段。1848年革命、1907年農民一揆、第一次大戦後、少数民族や左翼を抑圧、第二次大戦中は少数民族虐殺、1989年革命家たちを殺した
「ルーマニア正教会」独裁政権と親しく、1989年革命家たちが軍から逃げてきた時、教会の扉を開けなかった。
「競争」ペルシアの王は、訪英時に競馬鑑賞の誘いを断った。勝者と敗者が生じるのは明白だから。
「コロナ禍のダンス」長い棒を持ってソーシャルディスタンスを保ってのダンス
「ロボット」中東で戦った将校が言った。「戦争が自動化されつつある」
「禅」本物の詩人は喜劇と悲劇を同時に作る。人生には悲劇と喜劇の両方が含まれているからだ。

第三部:実践とほのめかし  
夜、学校に着いたエミ。体温を測り、中庭に行くと、保護者たち20数名と校長が待ち構えている。思い思いの目立つマスクをした保護者たち。話し合いの前に、問題の動画を見ていない人もいるのでと、全員の前でさらされる。身を乗り出して好奇心丸出しで見る人たち。見終わって、いよいよ弾劾裁判が始まる。高圧的にエミを追いつめる人たち。エミも負けてはいない。「偉そうな教会の人がいるせいで、この国には性教育が存在しない」
「国民的詩人エミネスクもエロティックな詩を書いています」と、詩を朗読するエミ。
「最も大切なことは成績よりも知識を求めること」というハンナ・アーレントの言葉を引用する。
校長が、「エミは優秀な教師」と時折、口を挟むのもさもありなんのエミの堂々とした受け答え。最後に処遇をどうするか多数決をとることになる・・・
ここで監督が提供してくれるのが、3つのエンディング。まずは、おおごとにならないバージョン。最後は、映画自体をジョークで終わらせるバージョン。

映画全体を通じて、笑いでぶっ飛ばそうとする場面があるかと思えば、ルーマニアの歴史や、人間の本質をついた場面があって、くらくら。
『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』というタイトルに、思い切り引いてしまい、観るのをやめようと思ったほどだったのですが、第一部では、ブカレストの街のなにげない風情が楽しめたし、第二部では、それぞれの言葉のウンチクが面白かったし、第三部では、保護者たちの言葉の暴力に応酬するエミの姿が小気味よくて、ぜひ観てくださいと太鼓判を押せる映画でした。“イカれたポルノ”に惹かれた方には、日本公開バージョンは、監督による検閲版ですので、期待外れです! 念のため。
それにしても、「教師にあるまじき卑猥な行為」と攻め立てる母親に、「あなたは聖母マリアさま?」と問い詰めたくなりました。(咲)


第71回ベルリン国際映画祭金熊賞受賞
2022年米アカデミー賞®ルーマニア代表作品

2021/ルーマニア、ルクセンブルク、チェコ、クロアチア/ルーマニア語/106分/シネスコ/5.1ch R-15
字幕翻訳:大城哲郎
配給:JAIHO 
公式サイト:https://unluckysex-movie.com/
★2022年4月23日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー



posted by sakiko at 03:17| Comment(0) | ルーマニア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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