監督:北村皆雄
撮影:柳瀬 裕史・森 照通・明⽯ 太郎
音楽:豊川容子+nin cup
語り:豊川容子
監修・カムイノミ対語訳:中川裕
(千葉大学名誉教授、『ゴールデンカムイ』アイヌ語監修)
出演:日川善次郎エカシ
1986年、北海道屈斜路コタンの美幌峠で、大正時代に行われてから75年ぶりに「キタキツネのイオマンテ(霊送り)」が行われた。
狩猟民であるアイヌの伝統的な考えでは、ヒグマやキタキツネといった生き物は、自らの肉や毛皮を土産にして、神の国から人間の国へやってくる。それを受け取ったアイヌは、お返しにわが子のように育てた動物の霊魂を、その父母のいる神の国へと送る。
歌や踊りで喜ばせ、お礼の品をどっさり背負わせてお送りするのがイオマンテである。
イオマンテではカムイノミ(祈詞)の一言一句に全霊が込められる。そして沢山のウポポとリㇺセが霊魂に捧げられる。心を尽くして歌い踊るアイヌの精神文化の原点がここにある。旅立つキタキツネに捧げるアイヌシンガーの歌が天まで響きわたる。
1986年撮影のこの映像には、75年ぶりに行われたその儀式が残されています。アイヌ語研究の第⼀⼈者・中川裕氏による現代語訳がつけられているので、ますます貴重なものとなりました。祭祀を司るのは、明治44生まれの日川善次郎エカシ(当時75歳)。立派な髭をたくわえて朗々と長い長い祈詞を唱えます。間違うと神を怒らせてしまうそうですが、口伝で覚えたのでしょうか?近代ではローマ字やラテン語表記をするようです。
神の国へ戻るチロンヌプカムイは、自分の役割を知っているかのように泣き騒いだりせずなんだかシンとしました。人間の国のようすを神に報告して、子孫を残すためにまた人間の国に戻って、と円環が続いていきます。晴れ着姿の男女が歌い踊る場面にも見入りました。みな手作りなのでしょう、1枚も同じのが見当たりません。民族衣装に興味のある方も必見。
北村皆雄監督が再訪したときには、日川エカシはすでに亡くなられています。今や生活も変わり、伝統文化の継承がどうなるのか先行きが気にかかります。北海道に開拓民が入るずっと前から、自然への畏敬の念を忘れずにきたアイヌの人々の知恵を知る一端になります。(白)
※タイトル「チロンヌプ」の「プ」は⼩⽂字が正式表記。
ーー祈詞ーー
それは 神というのは
ne hi anakne kamuy anakne
昔から 力のあるものが
teeta wano u nupur kuni p
神であると 聞きながら
kamuy ne sekor ku=nu pa ki kor
私は育ったもの ですから
ku=sukup pe ku=ne p ne ki na.
足らないところがあっても
u hayta yakka
よくよく 斟酌して いただいて
pirkano ceenomare a=ki pa ki wa
何事もなく 終わるように
apunno kane hopita kuni
尊き神 神のもとに
u pase kamuy kamuy or ta
ことづけを 私はするのですよ
u sonko(y)ani ku=ki pa ki na
キツネの神が 明日は
cironnup kamuy nisatta anak
神の国 神の元へ 行くので
kamuy mosir kamuy or ta arpa kusu
歩みの先 歩みの上を
arpa etok arpa kurkasi
神々よ よく見守って いただいて
kamuy utari u pirka nukar an=ki pa ki wa
無事に 着くように
u pirkanopo sirepa kuni
食料でも なんでも たくさん 背負って
haru ne yakka nep ne yakka poronno kane u se pa ki wa
神の元へ 行くように
kamuy or ta arpa kuni
尊き神 神々よ
pase kamuy kamuy utari
よく見守って いただけるように
pirka nukar an=ki pa kuni
[1986年5⽉31⽇ 前夜祭での⽇川エカシの祈詞より]
2021年/日本/カラー/105分
配給:ヴィジュアルフォークロア
(C)堤大司郎
https://www.iomantefilm.com/
★2022年4月30日(土)ロードショー
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