2022年04月23日

フェルナンド・ボテロ 豊満な人生(原題:Botero)

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監督:ドン・ミラー
撮影:ジョー・タッカー、ヨハン・レグレー
出演:フェルナンド・ボテロ

フェルナンド・ボテロは1932年4月19日コロンビアのメデジン生まれ、満90歳になった今も絵筆をとる現役のアーティスト。独特な画風は世界中から愛され、芸術家の頂点にいる。コロンビアからヨーロッパに渡って絵画を学び、ルネサンスに傾倒したボテロ。彼がいかにしてここまでたどり着いたのか、あの画風はいつから身についたのか。ボテロ本人、家族、歴史家やキュレーターたちの証言と映像を組み合わせて、素顔と作品の本質にせまるドキュメンタリー。

一度見たら忘れない個性的な画風、名前を知らなくても彼の絵画や彫刻は、きっと目にふれたことがあるはず。そしてくっきり残って忘れられません。人や動物、静物でさえも穴をあけて空気を吹き込んだように、ぷくぷくと膨らんでいます。そのためユーモラスで官能的、包容力と温かさも感じます。後に彫刻を学んで、やはり大きく重量感のある人や動物を制作しました。
実生活では2度結婚し、再婚した妻との間に生まれた息子を交通事故で亡くしました。可愛い盛りに亡くし、悲嘆の中描き続けたその子の絵がたくさん紹介されています。最初の妻との息子・娘が今父親を助けているのにホッとしました。
彼の作品のほとんどは多幸感にあふれていますが、一方コロンビアで起こったテロ、イラクで米軍が捕虜に対して行った虐待(飛行機の中で読んだ雑誌で写真を目にしてスケッチを残した)を描いた作品もあります。ボテロの筆致で描かれた大きな絵は、深く記憶に残るでしょう。
ボテロは超有名な芸術家となってもおごらず、探求心を消しません。しかも正義に燃える心があって、お金儲けに走らない(ように見えます)。美術館に自分の作品だけでなく、有名画家のコレクション、さらに買い足した作品まで寄付しています。映画では犯罪都市として描かれる印象のコロンビアですが、ボテロの作品はそこかしこにあり、美術館も充実しているようです。いいなぁ~。
コロンビアは遠いけれど、渋谷Bunkamuraでボテロの映画と展覧会が同時に鑑賞できます。(白)


思い切りふっくら膨らんで、ほっこりさせてくれるボテロの絵画や彫刻。
本作は、そこに込められた思いを紐解いてくれました。
4歳の時に父が亡くなったことを語るボテロ。彼の生まれ育ったコロンビア第二の都市メデジン。1940年代、司祭たちが町を支配していて、信仰心がなかった両親にはつらい環境だったようです。父亡き後、母は裁縫で生計をたて、ボテロは厳しく育てられました。
叔父の勧めで闘牛士を養成する学校に通うも、闘牛の絵を描くことに夢中になり、売店に6枚の絵を委託。初めての売上2ペソは、喜び勇んで自宅に帰る途中で落としてしまいました。海辺で警察が自由党の庶民を棒にぶら下げて運ぶ様を描いた絵が7000ドルで売れてスペインへ。ベラスケスやゴヤの作品から学び、イタリアのピエロ・デラ・フランチェスカに惹かれ、バイクでフィレンツェへ。ルネサンスに出会い、このころからはっきりと「ふくよかさ」を意識。お金が尽きてコロンビアに戻り、恋に落ち結婚。メキシコに移住。そして離婚。世界一の画家を目指してニューヨークへ。所持金わずか200ドル。1960年代のことです。若い女性キュレーターに見いだされ、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に出展。再婚し、息子も生まれ、パリに移住するも、交通事故でまだ幼い息子を亡くし、結局、離婚。描き続けた愛息の絵からは愛おしさが溢れ出ています。
名を成すようになったボテロは、誘拐や殺人の蔓延する故郷メデジンの汚名を返上したいと多くの作品を寄贈。ところが、1995年、メデジンのサン・アントニオ広場でボテロの鳩の銅像に仕掛けられた爆弾でテロが発生。破損した鳩は撤去される予定でしたが、ボテロ自身が同じものを隣に展示することを条件に今も残されています。破壊された鳩も、イラクのアブグレイブ刑務所の惨い捕虜虐待を美しく描いた何十枚の絵も、人々の記憶にいつまでも残るようにとの思い。ゲルニカをピカソが残したように。
90歳の今も、モナコの海の見えるアトリエで絵を描き、夏の1か月はイタリアのトスカーナ州ピエトラサンタの家で子どもや孫たちと一緒に過ごすボテロ。つらい思いもした人生の最終章が穏やかで幸せに満ちている様子に、ほっこり♪ (咲)



2018年/カナダ/カラー/ビスタ/82分
配給:アルバトロス・フィルム
(C)2018 by Botero the Legacy Inc. All Rights Reserved
https://botero-movie.com/
★2022年4月29日(金・祝)よりBunkamuraル・シネマほかにて全国順次ロードショー
◆同日より7月3日(日)までBunkamuraザ・ミュージアムにて展覧会「ボテロ展 ふくよかな魔法」開催
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/22_botero/
国内では26年ぶりとなる待望の大規模展、≪モナ・リザの横顔≫世界初公開!


posted by shiraishi at 00:59| Comment(0) | カナダ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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