監督・撮影・編集:金子遊
現地コーディネーター・字幕翻訳:伊藤雄馬
出演:伊藤雄馬、パー、ロン、カムノイ、リー、ルン、ナンノイ、ミー、ブン、ドーイプラ、イワン村の人びと、フアイヤク村の人びと
タイやラオスの密林でバナナ葉の家をつくり、ゾミア(山岳地帯)でノマド生活を送るムラブリ族。1930 年代に民族学者のベルナツィークが接触して著書「黄色い葉の精霊」で紹介し、存在を知られるようになった。だが、平地民から姿を見られずに森のなかを遊動するムラブリ族の生活の実態は謎に包まれている。
金子遊監督が、インドシナ半島の各地に散らばったムラブリの言葉を比較研究する日本の言語学者・伊藤雄馬氏と出会ったことから、本作の企画がスタート。今や400人程度しかいない少数民族ムラブリの撮影に世界初成功した、映像人類学のドキュメンタリー。
映画はまず、タイ側で焼畑農業をおこなうモン族にジャングルを焼き払われた挙げ句、定住して、日雇い労働者としてモン族の農業を手助けしているムラブリ族への聞き取りから始まります。話している途中で、モン族の言葉になったらしく、そばから「ムラブリ語で話しなさいよ」と女性が声をかけます。
言語学者・伊藤雄馬さんは、文字のないムラブリ語の語彙を収集し、ムラブリ語をはじめ6言語に精通。生活環境の変化とともに、どんな風に使用言語に影響を受けているかも判断できるのがすごいです。
※日本語字幕は、ムラブリ語は明朝体、その他の言語はゴシック体と区別されているので、話の途中で言語が変わったこともわかるようになっています。
ムラブリ語を使用しているのは、タイ北部の一番大きなグループで約400名。方言を使うほんの5名の小グループ。そして、100年程前にラオスに行った15名の小集団。3つのグループの使うムラブリ語の違いも研究している伊藤雄馬さん。とうていお金にはならない努力ですが、いつ消えゆくかもしれないムラブリ族の言葉の記録は、ムラブリ族だけでなく人類にとっても貴重なもの。
金子遊監督と伊藤雄馬さんは、今は村に定住しているタイのムラブリ族の 1 人に、以前の森の生活を再現してもらいます。また、お互いに相手は人食い、悪い奴らと思っているタイ北部の2グループを引き合わせます。100年前に分かれてラオスに行ったムラブリ族の動画をタイのムラブリ族に見せることも。その反応から、かつては同じ言葉を使っていたらしい痕跡を知ることができて興味深いです。
撮影にあたっては、ムラブリ族の伝統生活を壊させないため、地名や場所を特定できない配慮をしていることにも感心しました。
「森のほうが涼しいから学校には行かない」という少年が出てきました。心地よく暮らせるなら、学校も必要ないのだと思い知らされました。
今や寸時に世界の情報が入ってくる社会に生きる私たちに、人間らしく生きていくこととは?と問いかけられた思いです。(咲)
☆さらに詳しい撮影秘話などを、下記のサイトでご覧ください。
金子遊監督オフィシャルインタビュー
https://www.cinemanavi.com/article_detail/id/5792/
言語学者・伊藤雄馬オフィシャルインタビュー
https://www.moviecollection.jp/news/134926/
☆トークイベント
(すべてシアター・イメージフォーラムにて)
3/19(土)
10:45の回、伊藤雄馬(出演)、金子遊(監督)舞台あいさつ
17:30の回、伊藤雄馬、金子遊の舞台あいさつ
3/20(日)
10:45の回、相澤虎之助(空族/映画監督・脚本家)トーク
3/21(祝)
10:45の回、関根秀樹(『縄文人になる!』著者)トーク
3/23(水)
17:30の回、長本かな海(身体人類学)トーク
3/26(土)
10:45の回、奥野克巳(文化人類学者)トーク
3/27(日)
10:45の回、宮台真司(社会学者)トーク
4/2(土)
10:45の回、名越康文(精神科医)トーク
4/3(日)
10:45の回、今福龍太(文化人類学者)トーク
2019 年/85 分/ムラブリ語、タイ語、北タイ語、ラオス語、日本語/カラー/デジタル
配給:オムロ 幻視社
協力:多摩美術大学芸術人 類学研究所、京都大学東南アジア地域研究研究所
公式サイト: https://muraburi.tumblr.com/
Twitter:@muraburi
Facebook:https://www.facebook.com/muraburi
★2022年3 月 19 日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
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