2022年03月13日
ストレイ 犬が見た世界 原題:STRAY
監督:エリザベス・ロー
出演:ゼイティン、ナザール、カルタル(犬たち)ほか
トルコ、イスタンブール。ボスポラス海峡をはさみ、ヨーロッパとアジアにまたがる町を、野良犬のゼイティンは、今日もアザーン(イスラームのお祈りを促す詠唱)を聴きながら気ままに歩いている。建設現場の男たちがセイティンはじめ野良犬たちに餌をあげ、面倒をみている。シリア・アレッポから紛争を逃れてやってきたジャミル、ハリル、アリの3人の少年たちは、夜中、建設現場を寝床にしていて、故郷を離れた地で犬たちが心の拠り所だ。配給の食事が届くと、犬たちも一緒に走っていく・・・
建設現場からは、海峡の向こうの高台にシュレイマニエモスクが見えて、ゼイティンはアジア側を根城にしながら、路面電車の走るイステグラル通りをあがってみたり、ガラタ橋を渡ってヨーロッパ側のエミニョニュの船着き場辺りに行ってみたりと、イスタンブールの町を見せてくれます。
シリア難民の少年たちは、自分たちの暮らしも大変なのに、建設現場から野良犬のゼイティンとカルタルを連れ出して一緒に路上生活を始めるのですが、路上で寝たことで少年たちは警察に捕まってしまいます。犬たちは保護・・・
『猫が教えてくれたこと』(2016年 監督:ジェイダ・トルン)で、イスタンブールの人たちが野良猫たちにやさしいことが描かれていました。預言者ムハンマドが猫好きだったことから、ムスリムの多いトルコで猫が愛されるのは当然のことと思っていましたが、本作を観て、実は野良犬にもやさしいと知って、少し驚きました。犬は預言者ムハンマドが不浄だとした伝承があるからです。本作の中でも、「俺はシャーフィイー派だから犬に触るのはご法度」と語る男性がいました。
1909年から1910年にかけてイスタンブールで野犬狩りが行われて、マルマラ海にある不毛の孤島に8万匹ともいわれる野良犬が置き去りにされたという悲しい歴史があります。2004年にトルコで「動物保護法」が可決され、今は殺処分ゼロの犬にも猫にもやさしい社会になっているのだとか。
監督のエリザベス・ローは、2017年にトルコを旅した時に、犬ゼイティンと偶然に出逢い、彼女の「強い意志を持つ雰囲気に惹かれ、追いかけた」ことが、本作に繋がりました。
路上の犬をモデルにして生活していた古代ギリシャの哲学者ディオゲネスの言葉が、冒頭や合間に掲げられ、私たち人間が犬に学ぶべきことを教えられます。
シリア難民の少年たちが捕まったあとには、ノーベル文学賞を受賞したトルコの作家オルハン・パムクの「政府にどれだけ追い払われても犬は自由に動いている」という言葉。
映画のラスト、モスクから流れてくるアザーンに呼応するように遠吠えするゼイティンの姿に、じ~んとさせられました。(咲)
エリザベス・ロー(監督、プロデューサー、撮影監督、編集)
香港で生まれ育ったローは、後にアメリカへ渡り、ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・アーツで美術学士号を取得。卒業後にはスタンフォード大学で美術学修士号を取得している。数々の短編映画を製作。本編で長編映画デビュー。
2020年/アメリカ / トルコ語・英語 / 72分 / ビスタ / カラー / PG-12
日本語字幕:岩辺いずみ
配給:トランスフォーマー
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/stray/
★2022月3月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
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