2022年02月20日
ゴヤの名画と優しい泥棒(原題:The Duke)
監督:ロジャー・ミッシェル(『ノッティングヒルの恋人』『ウィークエンドはパリで』)
脚本:リチャード・ビーン、クライヴ・コールマン
撮影:マイク・エリー
出演:ジム・ブロードベント(ケンプトン・バントン)、ヘレン・ミレン(ドロシー・バントン)、フィオン・ホワイトヘッド(ジャッキー・バントン)、アンナ・マックスウェル・マーティン(グロウリング夫人)、マシュー・グード(ジェレミー・ハッチンソン)
197年の歴史を誇る美術館・ロンドン・ナショナル・ギャラリーで1961年、スペイン最大の画家と謳われるフランシスコ・デ・ゴヤの「ウェリントン公爵」盗難事件が起こった。この美術館の長い歴史の中で唯一にして最大の事件の犯人は、60歳のタクシー運転手ケンプトン・バントン。彼はゴヤの絵画を“人質”に取り、イギリス政府に対して身代金を要求。TVが唯一の娯楽だった時代、孤独な高齢者たちにはイギリスの公共放送であるBBCの受信料が重荷だった。彼らの生活を助けようと身代金で受信料を無料にしようと行動を起こしたと言う。しかし、事件にはもう一つの隠された真相があった。実話に基づく物語。
老夫婦を演じたイギリスの名優お2人の掛け合いが素晴らしい。実話のご本人たちにとても似ていて60年代の庶民になりきっています。小説執筆やモノ申すことに熱心な夫ケンプトンを支え、家政婦の仕事で暮らしを担う妻ドロシー。彼女に同情しつつ、当時のイギリスの庶民の暮らしぶりを興味深く観ました。頑なに見えるドロシーが抱えている悲しみも明らかになっていきます。
ほかの人が胸にしまっていることをケンプトンははっきりと口にして抗議します。おかげでパン工場を首になりますが。映画の山場である法廷場面での受け答えには大笑いでした。当時の裁判記録に基づいた台詞だそうなので、この楽天的なケンプトンのユーモアあふれる姿勢が評決に繋がったのではないかしらん。
60年前に彼が訴えた英国のBBCの受信料制度、今年の1月18日「見直しの時期にきている」と文化相(正確にはもっと長い名称)が表明しました。各国に影響がありそうですが日本のNHK受信料はどうなる??(白)
「事実は小説より奇なり」の諺を地でいくようなストーリーである。主人公のバントンは正しいと思ったことをすぐ口にする性格のせいで、妻ドロシーとも口論が絶えない。やることなすこと妻の機嫌を損ねて叱責される夫は、なかなかに痛ましい。盗んだ名画で身代金を得られれば人々を助けられると小躍りしたのも束の間、ひょんなことから計画が発覚して逮捕されてしまう。バントンの“正義”は報われないのか。観る側にフラストレーションが溜まりに溜まったところで、本作の見せ場である裁判シーンを迎える。ユーモアあふれるバントンの語りに法廷は笑いに包まれ、やがてその笑いによって、法廷が小さき者の存在に共感し、生きづらさを共有し、その勇気を称賛しようとする空気に変わっていく。裁判に集う人々の気持ちが一つに収斂していくさまは、感動的でさえある。
バントンは孤独な高齢者がテレビに社会とのつながりを求めていたと考えていた。現代のテレビ放送はそうした役割を果たせているか。テレビやNHKのあり方にも思いを巡らせる映画である。(堀)
実話に基づく物語で、記録に残っていた裁判記録からケンプトンの日常の人物像も描いたのでしょう。喋りが過ぎ、呆れられたり、仕事をクビになったりのケンプトンですが、本人はおおまじめに正義の味方。パキスタン人の若い同僚が休憩時間のことで差別された時には、「誰にも私の心を土足で踏みにじらせない」と、マハトマ・ガンディの言葉を語ります。
ワーテルローの戦いで勇敢に戦ったウェリントン公爵の絵を英国が取り戻したというニュースを見て、「彼は普通選挙に反対した人物」とつぶやくケンプトン。しかも、「あの絵の代金を払ったのは我々納税者。上流のやつらはやりたい放題」と不服なのです。
同じような事例は、日本にもたくさんありそうです。血税を、まるで自分のお金のように、無駄遣いするお上。例えば、アベノマスク。最初の発想にも驚きましたが、その後の保管料に廃棄料、さらには引き取ってくれる人への発送料! ケンプトン見習って、声をあげなくちゃ! (咲)
2020年/イギリス/カラー/シネスコ/95分
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
(c)PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020
公式サイト:happinet-phantom.com/goya-movie/
公式Twitter:@goya_movie #ゴヤの名画と優しい泥棒
★2022年2月25日(金)TOHOシネマズシャンテほかロードショー
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