監督・脚本:ラナ・ゴゴベリゼ
撮影:ゴガ・デヴダリアニ
音楽:ギヤ・カンチェリ
出演:ナナ・ジョルジャゼ、グランダ・ガブニア、ズラ・キプシゼ
トビリシ旧市街の古い家。石畳の道を見下ろす部屋。
“失われた時を求めて・・・”
作家のエレネはパソコンに向かい、人生を振り返る。
今日は彼女の79歳の誕生日。だが、一緒に暮らしている娘夫婦は忘れている。それどころか、娘ナトから姑のミランダにアルツハイマーの症状が出始め、一人住まいは心配なので、この家に連れてくると告げられる。
エレネはミランダが来るなら自分が彼女に家に移ると言い張る。ソ連時代に政府高官だったミランダには苦い思い出があるのだ。
そんな折、60年前の恋人アルチルから誕生日を祝う電話がかかってくる。かつてのように野の花を届けたいと。石畳の通りで朝までタンゴを踊った若き日を思い出す二人。
「妻を亡くし、君しか話し相手がいない」と、その日以来、折に触れて電話してくるアルチル。
一方、引っ越してきたミランダとの暮らしは、エレネの心をかき乱す。
テレビ出演したアルチルを見て、「昔、私に思いを寄せていた青年」というから、エレネはさらに面白くない。
自分と同じ名前の曾孫のエレネに、「金継ぎ」アート作品を壁に飾りながら、陶磁器の破損部分を金色に仕上げる日本の伝統的な修復技法を説明し、自分の過去の確執も修復したいと語る・・・
大粛清もあったソ連時代を経て、独立したジョージア。エレネはソ連政府の高官だったミランダから著書の出版禁止を言い渡され、その後、書けないでいたことをミランダにぶちまけます。小さな人形を作りながら、曾孫に、「私のお母さんが流刑中に作っていたのよ」と語るエレネ。
本作を91歳で紡いだラナ・ゴゴベリゼ監督。母ヌツァ・ゴゴベリゼは1934年に『ウジュムリ』を製作したジョージア最初の女性監督。父レヴァンは1937年の大粛清で処刑され、母も10年もの間、流刑されています。残されたラナは孤児院を経て、おばに引き取られ、成長後、強制収容所から帰還した母と再会。そんな過去も本作に反映されています。
トビリシの趣のある旧市街の家で、ゆるやかに語られる本作。2019年に亡くなった世界的作曲家ギヤ・カンチェリによる音楽が、静かに奏でられ、過去へのさまざまな思いにいざなわれました。
ジョージア映画祭2022で、ラナ・ゴゴベリゼ監督の『インタビュアー』(1978年)が上映され、観ることができました。妻であり母でありながら新聞記者として、様々な女性たちに取材するソフィコ。夫には家を留守にすることの多い仕事を辞めないからと浮気され、上司からは、出張のないポジションを提示されます。女性が本領を発揮できない家父長社会でもがく姿が鮮やかに描かれていました。
エレネを演じたナナ・ ジョルジャゼは、『インタビュアー』でインタビューを受ける女性の一人を演じていました。女優だけでなく、衣装や美術などで様々な映画に関わり、1979年に『ソポトへの旅(Mogzauroba Sopotshi)』で監督デビューもしているジョージアを代表する女性監督の一人。心に葛藤を抱えたエレネを素敵に演じています。(咲)
☆ラナ・ゴゴベリゼ監督メッセージ☆
公開を前に、93歳のラナ・ゴゴベリゼ監督より、今年で閉館となる岩波ホールと観客に向けたメッセージが届きました。
岩波ホールにはたくさんの思い出があります。80年代に私の映画『インタビュアー』を上映してくださったこと、その後『転回』が東京国際映画祭に選ばれて来日した際(その時の審査委員長はグレゴリー・ペックでした!)、温かく歓迎してくださったこと、私はその時、監督賞をいただいたのですが、当時、岩波ホールの総支配人だった髙野悦子さんが、私以上に喜んで、二人で抱き合って喜んだことが今でも思い出されます。映画への情熱が身体中から溢れ出ているような、忘れられない女性でした。歳をとると、かつての知人たちが次々にいなくなっていくものです。けれど、何歳になっても新しい出会いはあります。『金の糸』が日本で、若い世代の方たちとも出会えることを楽しみにしています。
◆ラナ・ゴゴベリゼ監督オンライン舞台挨拶
日時:2/26(土)13:00の回&15:30の回上映後
会場:岩波ホール
◆『金の糸』上映後トーク
スケジュール:※すべて13:00の回上映後
3/3(木)加藤登紀子さん(歌手)
3/10(木)はらだたけひでさん(画家・ジョージア映画祭主宰)①
3/17(木)ティムラズ・レジャバさん(駐日ジョージア大使)
3/24(木)はらだたけひでさん②
3/31(木)はらだたけひでさん③
4/7(木)五月女颯さん(ジョージア文学・批評理論研究)
4/14(木)廣瀬陽子さん(慶応大学教授・コーカサス地域研究)
2019年/ジョージア=フランス/91分
字幕:児島康宏
配給:ムヴィオラ
©️ 3003 film production, 2019
公式サイト:http://moviola.jp/kinnoito/
★2022年2月26日(土)より東京・岩波ホールほか全国順次公開
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