2022年02月09日
ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ 原題:The United States vs. Billie Holiday
監督:リー・ダニエルズ(『大統領の執事の涙』『プレシャス』)
脚本:スーザン=ロリ・パークス(2002年ピューリッツアー賞受賞)
出演:アンドラ・デイ、トレヴァンテ・ローズ(『ムーンライト』)、ギャレット・ヘドランド(『オン・ザ・ロード』)、レスリー・ジョーダン(『ヘルプ ~心がつなぐストーリー』)ほか
ビリー・ホリデイ。
1959年に44歳の若さでこの世を去った伝説の黒人女性歌手。
世界的名声を得ながら、酒と麻薬で健康を害し早世したビリー。
本作は、アメリカの国家権力に抗い、人権を掲げた「奇妙な果実」を歌い続けたビリーの姿を描き、連邦麻薬局の陰謀を暴き出した物語。
もとになったのは、イギリス人作家ヨハン・ハリが「麻薬と人間 100年の物語」のビリー・ホリデイの章。アメリカ合衆国財務省管轄の連邦麻薬局を率いたハリー・J・アンスリンガーが、「奇妙な果実」を歌わないようホリデイを脅し、彼女のドラッグの問題を利用して追い詰めたことを明かしたもの。脚本は、舞台作品「Topdog/Underdog(原題)」で黒人女性作家として初のピュリッツァー賞を受賞したスーザン=ロリ・パークス。
1939年からカフェ・ソサエティで歌い始めた「奇妙な果実」が大評判を呼びレコードも大ヒットを記録、一躍スターとなったビリー。1940年代、人種差別の撤廃を求める公民権運動が盛んになり、「奇妙な果実」は運動を扇動するとFBIはビリーに歌うことを禁止する。それでも「この歌だけは捨てない」と歌い続けるビリー。FBIは、黒人の捜査官ジミー・フレッチャーをおとり捜査に送り込む。逆境の中で、ますます輝き人々を魅了する姿にジミーは心酔し、ビリーもまたジミーに心を寄せるようになる。そんな最中、1947年、麻薬不法所持で逮捕されてしまう。翌年、出所しカーネギー・ホールの舞台に立ったビリー。客席を埋め尽くした観客の大半は白人だった。しかし、さらなる陰謀がビリーを待ち受けていた・・・
私がビリー・ホリデイの名前を知ったのは、2006年に公開されたドイツ映画『白バラの祈り:ゾフィー・ショル、最期の日々』(2005年)でのことでした。
第2次世界大戦時、ヒトラー政権に立ち向かい、"白バラ"と呼ばれた学生たちの反政府運動に参加し、21歳で処刑された女性ゾフィー・ショルの物語です。冒頭がビリー・ホリデイの歌を聴きながら楽しそうにくちずさんでいる場面でした。ただただ敵国アメリカの軽快な歌で、ビリー・ホリデイが黒人だということもわかりませんでした。今回、この映画を観て、国家に果敢に立ち向かったビリーの歌ということに意味があったのだと気づきました。
1959年にビリーが亡くなって60年以上経ち、アメリカでの黒人差別はなくなるどころか、ますます過激になっている状況があります。世界を見回しても、さまざまな差別が加速化しています。法律を整備したとしても、人々の心の中にある他者への偏見をなくさない限り、理不尽な差別はなくならないと感じます。
本作、冒頭で白人の女性インタビュアーが、「黒人でいる気分はどう?」と尋ね、ビリーが「ドリス・デイにも聞く?」と返します。「彼女は黒人じゃないから」とさらに不躾なインタビュアーに、「リンチを見たことは?」と、「奇妙な果実」が人権の歌であることを堂々と語るビリー。ビリーに成り切ったアンドラ・デイの存在感が半端じゃないです。(咲)
第78回ゴールデン・グローブ賞[ドラマ部門]主演女優賞受賞
第93回アカデミー賞主演女優賞ノミネート
2021年/アメリカ/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/131分/R15+
字幕翻訳:風間綾平
配給:ギャガGAGA
(C)2021 BILLIE HOLIDAY FILMS, LLC.
公式サイト:https://gaga.ne.jp/billie/
★2022年2月11日(祝・金)より、新宿ピカデリーほか全国公開
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