2022年01月23日
〈特集上映〉タル・ベーラ伝説前夜『ダムネーション/天罰』『ファミリー・ネスト』『アウトサイダー』
タル・ベーラはいかにして、唯一無二の映画作家になったのか----
『ニーチェの馬』(2011年)を最後に56歳という若さで映画監督引退を宣言したハンガリーの巨匠タル・ベーラ。伝説の『サタンタンゴ』(1994年)以前の足跡をたどる、日本初公開3作『ダムネーション/天罰』『ファミリー・ネスト』『アウトサイダー』が4Kデジタル・レストア版で一挙上映されます。
監督・脚本:タル・ベーラ
脚本:クラスナホルカイ・ラースロー (『ダムネーション/天罰』)
撮影監督:メドヴィジ・ガーボル(『ダムネーション/天罰』)
音楽:ヴィーグ・ミハーイ(『ダムネーション/天罰』)
編集:フラニツキー・アーグネシュ(『アウトサイダー』『ダムネーション/天罰』)
日本語字幕:北村広子 字幕監修:バーリン・レイ・コーシャ
4Kデジタル・レストア版
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/tarrbela/
★2022年1月29日(土)、シアター・イメージフォーラムほかにて一挙公開!
『ダムネーション/天罰』原題:Kárhozat/英題:Damnation
1988年/ハンガリー/121分/モノクロ/1:1.66
クラスナホルカイ・ラースローが初めて脚本を手掛け、ラースロー(脚本)、ヴィーグ・ミハーイ(音楽)が揃い、“タル・ベーラ スタイル”を確立させた記念碑的作品。ラースローと出会ったタル・ベーラは『サタンタンゴ』をすぐに取りかかろうとしたが、時間も予算もかかるため、先に本作に着手する。
不倫、騙し、裏切りー。荒廃した鉱山の町で罪に絡みとられて破滅していく人々の姿を、『サタンタンゴ』も手掛けた名手メドヴィジ・ガーボルが「映画史上最も素晴らしいモノクロームショット」(Village Voice)で捉えている。
窓の外にゆっくりと動く滑車。
おもむろに出かける男。
さびれた酒場。
大雨。
踊り続ける人たち・・・
『サタンタンゴ』の世界が、すでに展開していました。(咲)
『ファミリー・ネスト』原題:Családi tűzfészek/英題:Family Nest
1977年/ハンガリー/105分/モノクロ/1:1.37
住宅難のブダペストで夫の両親と同居する若い夫婦の姿を、16ミリカメラを用いてドキュメンタリータッチで5日間で撮影した、22歳の鮮烈なデビュー作。不法占拠している労働者を追い立てる警察官の暴力を8ミリカメラで撮影して逮捕されたタル・ベーラ自身の経験を基にしている。「映画で世界を変えたいと思っていた」とタル・ベーラ自身が語る通り、ハンガリー社会の苛烈さを直視する作品となっている。社会・世界で生きる人々を見つめるまなざしの確かさは、デビュー作である本作から一貫している。
狭いアパートで夫の両親と同居せざるを得ない若い妻。何かと小言をいう義父。あげく、除隊して家に帰ってきた夫は、どちらにもいい顔をしようと妻の肩を持つわけではない。父親から妻が浮気していると言われ、信じる夫。48時間居座れば自分の家になるという噂を聞き、娘を連れ空き家に居座る妻・・・ タル・ベーラのその後の作品とは、ちょっと雰囲気が違って、社会問題を痛烈な皮肉で描いた作品でした。(咲)
『アウトサイダー』原題:Szabadgyalog/英題:The Outsider
1981年/ハンガリー/128分/カラー/1:1.37
社会に適合できないミュージシャンの姿を描いた監督第2作にして、珍しいカラー作品。
この作品がきっかけで、タル・ベーラは国家当局より目をつけられることになる。本作以降すべての作品で編集を担当するフラニツキー・アーグネシュが初めて参加。酒場での音楽とダンスなど、タル・ベーラ作品のトレードマークと言えるような描写が早くも見てとれる。日本でも80年代にヒットしたニュートン・ファミリーの「サンタ・マリア」が印象的に使われている。
どうしようもない男が描かれた本作。カラーなのに、しっかりタル・ベーラの世界でした。(咲)
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私が最初に観たタル・ベーラ作品は『倫敦から来た男』(2007年、日本公開2009年12月)でした。
モノクロームで静かに描かれた映像美にぞくっとし、「鬼才」という言葉を実感したものでした。次に、期待して観に行った『ニーチェの馬』は、荒野の一軒家に住む父と娘と馬の過酷な日常をモノクロで描いた154分! ひたすら風の音が吹き荒れ、いつ、この映画から解放されるのだろう・・・と思いながらも、映像の美しさに引き込まれました。
『ニーチェの馬』が東京フィルメックスで上映されるのにあわせ、タル・ベーラが来日。2011年11月18日(金)、ハンガリー大使館で開かれた記者会見に颯爽と現れ、「監督は引退するけれど、映画界を引退する訳じゃない、後身を育てる」と、さらっと言ってのけました。
その後、2019年に伝説的な7時間18分の『サタンタンゴ』(1994年)が日本で初公開され、再来日したタル・ベーラは8年の間にだいぶんお年を召した雰囲気になっていましたが、健啖家なのは変わらずでした。
『サタンタンゴ』 タル・ベーラ監督来日記者会見
2019年9月14日(土) 撮影:景山咲子
今回の特集上映では、『サタンタンゴ』と『ニーチェの馬』も特別上映されます。
〈特別上映〉
●『サタンタンゴ』(1994年/438分/モノクロ) ※途中2回休憩有り
降り続く雨と泥に覆われ、村人同士が疑心暗鬼になり、活気のない村に死んだはずの男イリミアーシュが帰ってくる。彼の帰還に惑わされる村人たち。イリミアーシュは果たして救世主なのか?それとも?クラスナホルカイ・ラースローの同名小説を原作として、タンゴのステップ〈6歩前に、6歩後へ〉に呼応した12章で構成される、伝説の7時間18分。
シネジャ作品紹介
●『ニーチェの馬』(2011年/154分/モノクロ/35mm) ※35mmフィルム上映。リールの交換のため途中休憩有り
1889年トリノ。ニーチェは鞭打たれ疲弊した馬車馬を見つけると、駆け寄り卒倒した。そのまま精神は崩壊し、二度と正気に戻ることはなかった。その馬の行方は誰も知らない─。馬と農夫、そしてその娘。暴風が吹き荒れる6日間の黙示録にして、タル・ベーラ監督“最後の作品”。
シネジャ作品紹介
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