中世末期、イングランドとの百年戦争の中で果敢にフランス軍を率い、「救国のおとめ」として知られるジャンヌ・ダルク。
現代フランス映画において一筋縄ではいかない挑発的な作品を発表してきた鬼才、ブリュノ・デュモン監督が、シャルル・ペギーの詩劇「ジャンヌ・ダルク」(1897)と「ジャンヌ・ダルクの愛の秘義」(1910)を大胆な手法で二つの映画に仕上げました。
『ジャネット』では神の声を聞く体験と戦いに旅立つまでの幼年時代、『ジャンヌ』では異端審問と火刑までを描いています。
『ジャネット』
原題:Jeannette, l'enfance de Jeanne d'Arc 英題: Jeannette, the childhood of Joan of Arc
監督・脚本:ブリュノ・デュモン
原作:シャルル・ペギー
撮影:ギヨーム・デフォンタン
音楽:Igorrr
振付:フィリップ・ドゥクフレ
出演:リーズ・ルプラ・プリュドム、ジャンヌ・ヴォワザン、リュシル・グーティエ ほか
2017年/フランス/フランス語/112分/カラー/ビスタ
日本語字幕:高部義之
1425年、フランスとイングランドによる王位継承権をめぐる「百年戦争」の真っただ中。幼いジャネット(ジャンヌ・ダルクの幼年期の呼び名)は、小さな村ドンレミで羊の世話をして暮らしていた。ある日、友だちのオーヴィエットに、イングランドによって引き起こされた耐え難い苦しみを打ち明ける。思い悩む少女を修道女のジェルヴェーズは諭そうとするが、ジャネットは神の声を聴く体験を通し、フランス王国を救うために武器を取る覚悟を決める。
原作の詩劇を映画化するのに、ブリュノ・デュモン監督は初めてミュージカルに挑戦。詩を音楽にのせて描いています。とはいえ、いわゆるミュージカルをイメージすると、ちょっと違いました。野原や川をあどけないジャネットが友達と歩き回り、後に軍を率いて戦う勇ましい乙女に成長するとは想像もできない、のどかな風情。
幼少期のジャネット役は、演技経験のない8歳の少女。清楚で純粋な雰囲気の可愛らしい子。神の声を聞いて目覚め、野性的で衝動的な13歳のジャネット役もプロの俳優ではありませんが、踊りを習っていて歌も上手な少女。監督の思うジャネットを描けたそうです。(咲)
『ジャンヌ』
原題:Jeanne 英題: Joan of Arc
監督・脚本:ブリュノ・デュモン
原作:シャルル・ペギー
撮影:デイビット・シャンビル
音楽:クリストフ
出演:リーズ・ルプラ・プリュドム、ファブリス・ルキーニ、クリストフほか
2019年/フランス/フランス語/138分/カラー/ビスタ
日本語字幕:高部義之
15世紀、フランスの王位継承をめぐって、フランスとイングランドが血で血を洗う争いの時代。若きジャンヌ・ダルクは、「フランスを救え」と言う神の声に導かれてフランス王の軍隊を率いていた。神、愛、罪、福音と祈りを説くジャンヌだが、その力に畏怖と疑心を持った味方の軍内部から反発が生じる。やがてジャンヌはイングランド側に捕らえられ、教会によって異端審問にかけられる。抑圧と支配の濃密な論理で迫る「雄弁」な男たちを相手に、反駁の叫びと沈黙で応じるジャンヌ。告発に屈せず、自らの霊性と使命に忠実であり続ける。
冒頭、太鼓に合わせて、馬がステップを踏む様が優雅で、まるで踊っているよう。それが、これから戦いに挑むジャンヌたちを乗せていく馬たちなのです。少女ジャネットが神の啓示を受けてドンレミ村を出立するまでを描いた『ジャネット』が光を浴び、希望に満ちたものだったのが、『ジャンヌ』では、パリ攻略の失敗から敗北、そしてルーアンでの異端審問によって19歳で処刑されるまでを描いていて、映画のトーンも違います。
これまでになんとなく見聞きしていたジャンヌ・ダルク像とも違う印象を持ちました。それが、鬼才ブリュノ・デュモンらしさといえるのかもしれません。
自分ですっかり忘れていたのですが、ブリュノ・デュモン監督にインタビューしたことがありました。「いかにも哲学がご専門で気難しそうな雰囲気」と第一印象を書いていました。

フランス映画祭2010『ハデウェイヒ』ブリュノ・デュモン監督インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2010/fffj2010d/index.html
このインタビューの中で、こんな言葉がありました。
「映画の仕事をする時に、いつも思っているのが理想を持たないこと。だから、プロを使いません。真実は普通のものから生まれます。プロだと理想像を持ちたがります。平凡である、普通であること、その人が世界で一つであることが、普遍的で真実を訴えることが出来るのです。」
驚いたことに、『ジャンヌ』でジャンヌを演じたのは、『ジャネット』で13歳のジャネットを演じたジャンヌ・ヴォワザンではなく、幼少期を演じたリーズ・ルプラ・プリュドム。ジャンヌ・ヴォワザンが諸事情で出られなくなったとき、リーズを起用することが天啓のようにひらめいたのだそうです。観ているときには、まさかそんな年が下の子が19歳を演じているとは気が付きませんでした。(咲)
配給:ユーロスペース
https://jeannette-jeanne.com/
★2021年12月11日(土)よりユーロスペースほか全国にて2作同時公開