2021年12月01日

クナシリ(原題:Kounachir)

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監督:ウラジーミル・コズロフ
撮影:グレブ・テレショフ

北海道からわずか16キロに位置し、かつては四島全体で約17,000人の日本人が生活していたという北方領土。しかし、旧ソ連軍が終戦後島に入り、1947年から48年にかけて日本人住民の強制退去が行われた。日本政府は問題が解決するまで、日本国民に入域を行わないよう要請している。本作は、そんな、日本人が容易に足を踏み入れることができない地、北方領土の国後島で暮らすロシア人島民らの生活、島の様子をありのままに映し出す。

2008年に友人たちと知床旅行をしたとき、お天気が良くて海の向こうに国後島がくっきりと見えました。こんなに近いのかと驚いたものです。北方四島は良い漁場で、島民たちは豊かに暮らしていたようです。敗戦後旧ソ連の住民が移住してきたことは知っていましたが、現在の姿を見ることはありませんでした。旧ソ連生まれのコズロフ監督が撮影許可を得て、ドキュメンタリー作品としたものです。砲台や朽ちた船の残骸は残っていますが、かつての日本の住民たちの家は跡形もなく、墓石が湖に捨てられて墓地が荒れ放題です。水仙の花が綺麗に咲いていたのがせめてもの慰めでした。
高齢のロシア人男性は強制退去のようすを詳細に語り、戦火から遠いここもまた大変だったのだと知らされました。移住してきた人々が満足したかというと、そうでもなかったようです。せっかくの日本の設備などを使わせず、廃棄させたとはもったいない。夫を亡くした妻はその後もインフラが整わずトイレもないここはゴミ溜めと吐き捨てるようにいいます。ソ連の崩壊後、住民にしわ寄せがきているのに、軍事博物館を建設すると自慢気な軍人に、それよりも生活基盤をと言いたくなりました。作中に意気盛んな安倍総理とニコリともしないプーチン大統領のニュース映像。いまだ日本とロシアに平和条約は結ばれていません。(白)


♪はるかクナシリに白夜は明ける♪
森繁久彌さん作詞・作曲の「知床旅情」の一節。
私が初めて北海道を旅した1974年の夏、ユースホステルの夕食後のミーティングで、よく歌われていた曲でした。知床には行かなかったのですが、野付半島から、すぐ向こうに国後島が見えて、あ~これが、歌に出てくるクナシリかと感慨深いものがありました。翌冬、納沙布岬からは、水晶島がすぐそばに見えて、その向こうに見える雪を頂いた国後の山は、まさに「はるかクナシリ」のイメージでした。こんなに近いのに、ソ連の領土になってしまって、強制退去させられた人たちは、どんな思いで、故郷の島を眺めているのだろうと思ったものです。
映画の中で、日本人の引き揚げの頃を覚えている1938年生まれの方が、写真や葉書の持ち出しは禁止だったと語っていました。かつてここで暮らした証も持ち出せなかったとは!
そして、国策で国後に来たのは、クラスノダール(黒海に近い北コーカサス西部の都市)や、ベラルーシ(これまた旧ソ連の西端!)の人たち。国後には電話も電気も水道も整っていて、これまで見たこともない文明的な環境だったといいます。それなのに、入植者たちは日本人の残した薪ストーブすら使いこなせなかったのだとか。
ウラジーミル・コズロフ監督は、旧ソ連(現ベラルーシ)出身で、現在はフランスを拠点に活動している方。旧ソ連の、そして、現ロシアの体制の中で、僻地で暮らす人々の姿を映しだし、大国の正義の空しさを感じさせてくれました。(咲)


1984年、車で北海道を1か月くらい旅した。その時、摩周湖から国道272号を走った。山間地から海に向かって降りていく途中で海が見え、その向こうに島が見えた。それが国後島だった。国後島がそんな近くにあると思っていなかったので、その島影の大きさにびっくりした。私が経験した国後島の姿は、今もそのイメージで残っている。北方四島というと出てくる国後島だが、こんなに日本のそばにあるのに、今、そこに暮らしている人たちの姿というのは日本ではほとんど知られていない状態だと思う。
そしてこのドキュメンタリー作品。かつて日本領土だった島の姿を見ることができる。1945年9月のソ連侵攻で占領され、それ以来、ソ連、ロシアの領土となり、いまだ返還されずにいる。日本人は1947,8年頃強制退去させられたという。このドキュメンタリーでは、かつて日本人が暮らしていたあとがまだ残っている状態がたくさん出てくる。日本人が暮らしていたあとに入ってきたのは中央アジアや、旧ソ連の西方から移住してきた人が多いようだ。そして、現ロシアの首脳やここに暮らしている人々は日本に返還なんて考えられないという割には、開発は進まず、昔のこの島の姿、それも寂れた姿のまま残っている様が映し出される。きっと繁栄しているのは中心部だけで、後は何も手付かず、建物なども朽ち果てた姿や、林に戻っているのだろう。
それでも日本から譲られた友好丸なんて船があったり、日本からの開発を期待する人たちがいるということも出てくる。そうなるといいけど、この情勢では難しいでしょうね。元島民も、もう少なくなっている状況で、日本に戻ってくることも遠ざかってしまっていると感じたドキュメンタリーでした(暁)。


2019年/フランス/カラー/ビスタ/74分
配給・宣伝:アンプラグド
(C) Les Films du Temps Scelle - Les Docs du Nord 2019
https://kounachir-movie.com/
★2021年12月4日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

posted by shiraishi at 19:52| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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