監督:フランソワ・ジラール
製作総指揮:ロバート・ラントス
音楽:ハワード・ショア
ヴァイオリン演奏:レイ・チェン
原作:ノーマン・レブレヒト著「The Song of Names」
出演:ティム・ロス、クライヴ・オーウェン、ルーク・ドイル、ミシャ・ハンドリー、キャサリン・マコーマック
1951年、ロンドン。21歳のユダヤ人の天才ヴァイオリニスト、ドヴィドル・ラパポートの初演奏を待ち構える貴族や国会議員、タイムズ紙の批評家たち。開演時間が間近に迫る。ドヴィドルをサポートし初舞台を企画したギルバード・シモンズ(スタンリー・タウンゼント)と、その息子マーティンがやきもきして待つが、ドヴィドルはとうとう現れなかった。
35年後、マーティン(ティム・ロス)は、妻のヘレン(キャサリン・マコーマック)と二人で暮らしていた。忽然と消えたドヴィドルのことを、マーティンは片時も忘れたことがなかった。第二次世界大戦下、ヴァイオリンの指導者を探してポーランドから父親に連れられてやってきたユダヤ人の少年ドヴィドル。その才能を見抜いて父が家に引き取った時、マーティンは同い年の9歳だった。自信満々で生意気なドヴィドルを嫌っていたマーティンだったが、ナチスドイツがポーランドに侵攻したニュースに、家族の写真を見ながら涙するドヴィドルを励ましたことをきっかけに、二人は兄弟のような絆を結んでいたのだ。
ある日、コンクールの審査員をしていたマーティンは、あるヴァイオリニストが演奏前にドヴィドルと同じ仕草をしたのを見て、ドヴィドルが生きていることを確信。探し出す旅に出る・・・
ポーランドにいたドヴィドルの両親や姉妹は、終戦後、行方不明になってしまい、マーティンの父がポーランドに赴いて探すのですが、トレブリンカ収容所に移送されたという記録だけが残っていました。このことが、初演奏にドヴィドルが戻ってこなかったことと深く関わっていたのです。
原作では、ドヴィドルを引き取ったロンドンの家族もユダヤ人だったのを、映画ではキリスト教の家庭に変更。マーティンは、「ドヴィドルのせいでベーコンも食べられない」と文句を言っていて、ユダヤの食習慣に配慮していたことが伺えます。13歳の時に行うユダヤの成人式「バル・ミツバ」にもマーティンは臨席するのですが、その後、ドヴィドルはシナゴーグでマーティンを立ち会わせて、タリス(お祈りの時のショール)やキッパ(帽子)を切り刻み、ユダヤであることを捨てます。そんな彼が、またユダヤであることを自ら選んだのが、この映画の肝。いったい何があったのか、どうぞ劇場でご確認ください。
映画の原題にもなっている「The Song of Names(名前たちの歌)」は、ホロコーストで犠牲になった人たちの名前を美しい旋律で記憶に留めたもの。犠牲になった人たちの名前を後世に伝えて、魂を悼むものなのです。
ユダヤ人が「記憶の民」であることを思い起こさせてくれる物語でしたが、ユダヤでない監督が、よく丹念に調べて作られたと感心しました。 堀木さんによる監督インタビューをぜひお読みください。(咲)

『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』フランソワ・ジラール監督インタビュー
2019年/イギリス・カナダ・ハンガリー・ドイツ/英語・ポーランド語・ヘブライ語・イタリア語/DCP/スコープサイズ/5.1ch/113分
字幕翻訳:櫻田美樹
配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ
公式サイト:https://songofnames.jp/
★2021年12月3日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国公開