2021年11月27日

ダ・ヴィンチは誰に微笑む (原題:The Savior For Sale)

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監督:アントワーヌ・ヴィトキーヌ
編集:イヴァン・ドゥムランドル、タニア・ゴールデンバーグ
撮影監督:グザヴィエ・リバーマン
関係者(インタビュイー):ロバート・サイモン/ 美術商、「サルバトール・ムンディ」の発⾒者
ルーク・サイソン /ナショナル・ギャラリー学芸員
マーティン・ケンプ /オックスフォードの美術歴史家、ナショナル・ギャラリーとクリスティーズの主任専⾨家
マシュー・ランドラス /オックスフォードの美術歴史家、マーティン・ケンプの反駁者
スコット・レイバーン /ニューヨーク・タイムズ紙記者
ウォレン・アデルソン /美術商、「サルバトール・ムンディ」の販売者
ニコラス・ジョリー /サザビーズ・フランスの元副社⻑
イブ・ブービエ /美術商、ドミトリー・リボロフレフのアドバイザー
エルヴェ・ティマイム /ドミトリー・リボロフレフの弁護⼠
アン・ラミュニエール /クリスティーズ・ジュネーヴの元代表
クリス・ドルコン /フランス国⽴美術館連合、グランパレ元代表
“アリア・アル・セヌッシ王⼥ /” サウジアラビア⽂化⼤⾂バッダー王⼦のアドバイザー
“ピエール” /フランス⽂化⼤⾂の⾼官
“ジャック” /政府⾼官

2017 年、レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の絵画とされる「サルバトール・ムンディ」(世界の救世主の意)が、史上最⾼額となる510 億円で落札された。100年間所在が不明だったが、2005年にアメリカの美術商がダ・ヴィンチの模写と紹介されていた古い絵画を発見、わずか1175ドル(約13万円)で手に入れた。著名な修復家が洗浄し、修復を進めるうちに模写でなく原画の可能性が高まる。2008年ダ・ヴィンチの研究家たちが集められ、調査する。ダ・ヴィンチの権威の研究者のお墨付きを得て、ロンドン・ナショナル・ギャラリーは2012~2013年「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」を開催した。以後このお宝の元に金儲けに目のない輩が集まってくる。

レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画といえば誰もが思い浮かべるのは「モナ・リザ」でしょう。この一回り小さいサイズの「サルバトール・ムンディ」はやわらかい微笑をたたえ、雰囲気が似ていて通称「男性版モナ・リザ」と呼ばれています。この作品が発見されてから、オークションで史上最高額で落札されるまでに、何があったのか?本物だったのか?今どこにあるのかまで、多くの関係者のインタビューを並べて、紐解いていきます。
驚くのは作品が人の手に渡るたびに値が吊り上がること。委託されたのに「中抜き」して商慣習だと開き直る人がいること。規定の手数料をもらっているのに、です。それがばれて、多額ですから訴訟沙汰になりました。売るオークション側も都合の悪いことには触れず、売り切って手数料を稼ぐんです。
500年も前に描かれた作品の真贋を決定するのは至難の業。この作品も工房で弟子が描いたものという意見もあり、真筆と判断した研究家も間違うこともあると言っています。弟子の手になるのか、本人なのか、はたまたいくらかは手が入っているのかは大きな差ですが、それはマーケット内でのこと。美術ファンは最後の1枚と言われるこの作品を一目観たいはず。大衆の目に触れることなく、破格の値がつく投機対象や政治の取引に使われてしまうことは、残念です。
アントワーヌ・ヴィトキーヌ監督は、初めはサウジアラビアの皇太子のドキュメンタリーを撮っていて、ヒョウタンから駒のようにこの絵画の取引の顛末を追いかけることになったようです。裏側は面白いですねぇ。(白)


思いもかけず、サウディアラビアが絡んでいることに興味津々。
イエス・キリストを描いた肖像画である「サルバトール・ムンディ」をなぜイスラームの盟主サウディアラビアが?と思う方もいるかもしれませんが、イスラームにおいても、イエス(アラビア語でイーサー)は預言者の一人。不思議はありません。
ムハンマド・ビン・サルマーンが皇太子になって以来、女性の自動車運転を認めたり、映画館を復帰させるなど、外に向けてアピールする改革を進めていますが、文化にも力を入れている証に「サルバトール・ムンディ」を購入したのだとしても、超高額での落札は、いかにも石油成金の金満国家らしい!
古代都市マダイン・サーレハ付近の沙漠をいく車の隊列の場面があって、おぉっと思ったのですが、アル・ウラ遺跡の観光開発のためにフランスと協定を結んだことが語られていました。
サウディアート委員会も結成されていて、メトロポリタン美術館並みの美術館を5つ作るという話も。
なので、ますますサウディアラビア王室が落札したのではないかという推理は真実味があります。
思えば、冒頭、いくつかのニュースが出てくる最初に、「サウディアラビアが攻撃してイエメン紛争が激化」とありました。うがった見方をすれば、金に飽かせてのやりたい放題を揶揄しているようにも思えました。
そんな中でも、サウディアラビア文化大臣バドル王子のアドバイザーであるアリア・アル・セヌーシ王女が、髪の毛も顔も出して、歯切れのいい物言いをしているのは実に痛快でした。(咲)


2021年/フランス映画/カラー/ヴィスタ/100 分/5.1ch デジタル
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/last-davinci/
★2021年11月26日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国順次公開

posted by shiraishi at 01:44| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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