2021年11月14日

モスル あるSWAT部隊の戦い  原題:Mosul

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監督: マシュー・マイケル・カーナハン
出演: スヘール・ダッバーシ、アダム・ベッサ、イスハーク・エルヤス、クタイバ・アブデル=ハック、アフマド・ガーネム、ムハイメン・マハブーバ、ワリード・エル=ガーシィ
イラク第二の都市モスル。21歳のカーワは、警官になってまだ2か月。ISIS(イスラム過激派組織 ★注)に目の前で叔父を殺され茫然としているところを、モスル出身の精鋭の警官で構成された特殊部隊SWATに救われる。部隊を率いるジャーセム少佐は、カーワをその場でSWATの一員にスカウトする。「クルド人のガキを仲間にするのか」という隊員に、「身内をISISに殺されたという入隊条件を満たしている」とジャーセム少佐。カーワは、10数名の元警察官で編成されたSWAT隊に同行するうち、本部からの命令を無視して独自の任務を遂行していることに気づく。ISISの秘密基地を見つけるが、遠巻きにして襲撃しようとしない。SWATの任務はいったい何なのか・・・

★注:ISIS(イスラム過激派組織): 映画の冒頭で、アラビア語では「ダーイッシュ」と呼ばれると掲げられています。日本では、IS、イスラム国などの呼び方がメディアで定着していて、イスラムが過激なものというイメージを増長しています。ダーイッシュ(イスラム国)のイスラムの解釈は本来のイスラムの教義からかけ離れていることを念頭においてほしいものです。

アメリカの雑誌「ザ・ニューヨーカー」に掲載された、イラクのSWAT隊の驚くべき任務についての記事を、「アベンジャーズ」シリーズの『インフィニティ・ウォー』と『エンドゲーム』の監督、ジョー&アンソニー・ルッソ兄弟が、どうしても世界に知らしめなければと映画化権を取得。彼らが監督に指名したのは、ロバート・レッドフォード監督の『大いなる陰謀』や、ブラッド・ピット主演の『ワールド・ウォーZ』の脚本で絶賛されたマシュー・マイケル・カーナハン。監督デビュー作となる本作に、「アラビア語を母語とする俳優を起用しなければ意味がない」とこだわった。ジャーセム少佐役のスへール・ダッバーシはイラク生まれで、難民としてヨルダン経由アメリカに移住。カーワ役アダム・ベッサはチュニジア人の両親のもと、南フランス生まれ。アミール役ムハイメン・マハブーバは、イラク人の両親のもとデトロイトで生まれたが、7歳から高校までイラクで過ごす。イスハーク・エルヤス(ワリード役)、クタイバ・アブデル=ハック(カマール役)、アフマド・ガーネム(シーナーン役)は、ヨルダン生まれ。イランのアスファハーニー少佐役のワリード・エル=ガーシィは、スーダン生まれだが、イランにも色々な人種がいるので良しとしましょう。
地上部分の撮影は、モロッコのマラケシュでセットを組んでいますが、ドローンで映し出したモスルの街は本物。

なにより、冒頭で映し出されるモスルの破壊尽くされた姿に胸が痛みます。
モスルは、イラク北部のチグリス川両岸に広がる古い歴史を持つ町。アッシリア王国の古都ニネヴェもすぐ近く。ネストリウス派キリスト教徒の歴史的な中心地ですが、今は住民のほとんどがムスリムのアラブ人。(クルド人が統治するクルディスタン地域はすぐ隣り)第一次世界大戦で、イギリス軍が1918年10月にオスマン帝国と戦い、モスルを占領しました。
映画の中で、イランのアスファハーニー少佐に「今の国境は欧州が決めたもの。君たちには国と誇れるものがない」と言われ、ジャーセム少佐は、「イラクにはサッダーム・フセインも、米国もイランもアルカーイダもいらない」と答える場面がありました。
別の場面で「米国はイラクの再建など考えずに破壊するだけ」という言葉も。
クウェートのテレビ番組で、第一婦人と第三婦人がもめている場面を見ながら「金持ちの国は違う」「女房なんて一人でも面倒」と、イラク周辺の金満国への皮肉も出てきて、アメリカ映画ながら、イラクの人たちの本音に近いものを描いていると感じました。

本作製作の経緯について、公式サイトに掲載されているプロデューサーのジョー&アンソニー・ルッソ兄弟およびモハメド・アルダラジー(イラク人)のインタビューを是非お読みください。
https://mosul-movie.jp/assets/data/interview_producer.pdf

イラク人のプロデューサーであるモハメド・アルダラジーさんに、監督作品『バビロンの陽光』が2011年に日本で公開された折にインタビューしています。

『バビロンの陽光』モハメド・アルダラジー監督インタビュー
http://www.cinemajournal.net/special/2011/babylon/index.html

この2011年のアルダラジー監督インタビューの中に、「サッダーム・フセインの失墜後、イラクの人たちはアイデンティティを失いました。自分を見失ったのです。フセイン政権崩壊直後には、宗派や民族に自らのアイデンティティを求める傾向もあったけれど、今はイラク人という共通の意識で、国を良くしようという雰囲気が大衆の間にはあります」という言葉がありました。あれから10年経ちましたが、いまだに落ち着かないイラク。本作を観て、少しでもイラクの人たちの思いに寄り添っていただければと願います。(咲)


2019 年/アメリカ/カラー/102 分/シネスコ/5.1ch
配給:ポニーキャニオン
公式サイト:https://mosul-movie.jp/
★2021年11月19日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー



posted by sakiko at 03:06| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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