2021年10月24日

モーリタニアン 黒塗りの記録   原題:THE MAURITANIAN

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監督:ケヴィン・マクドナルド(『ラストキング・オブ・スコットランド』『消されたヘッドライン』)
原作:モハメドゥ・ウルド・スラヒ「モーリタニアン 黒塗りの記録」(河出文庫)
出演:ジョディ・フォスター ベネディクト・カンバーバッチ タハール・ラヒム シャイリーン・ウッドリー ザッカリー・リーヴァイ

2001年11月、モーリタニア。モハメドゥ・スラヒ(タハール・ラヒム)は、9.11同時多発テロの首謀者の1人として拘束される。ヨルダンなどを経て、キューバにある米軍のグアンタナモ収容所に移送される。裁判は一度も開かれないまま時が経ち、2005年、人権派弁護士ナンシー・ホランダー(ジョディ・フォスター)が、「不当な拘禁」だとしてモハメドゥの弁護を買って出る。時を同じくして、9.11 の戦犯法廷で政府が望む死刑第 1 号にモハメドゥの名があがり、起訴をスチュアート中佐(ベネディクト・カンバーバッチ)が担当する。中佐はハイジャックされた機の副操縦士だった親友の無念を晴らそうと意気込んでいた。
ナンシーは通訳兼アシスタントの若手弁護士テリー・ダンカン(シャイリーン・ウッドリー)を伴ってモハメドゥと面談し、証言として手記を書くよう説得する。ナンシーたちは、モハメドゥの手記から厳しい尋問や拷問が横行する実態を知り息を飲むと共に、彼のユーモアと人間味に溢れた人柄に惹かれていく。政府に請求していた軍による調査資料がようやく届くが、中身はほとんど真っ黒に塗りつぶされていた。スチュアート中佐側に届く資料も同様だった・・・

本作の原作であるモハメドゥ・ウルド・スラヒの手記「モーリタニアン 黒塗りの記録」が出版されたのは、まだモハメドゥ本人がキューバのグアンタナモ米軍基地に収容中の2015年のこと。軍による調査資料が黒塗りだったのと同様、アメリカ政府による検閲で多くが黒く塗りつぶされた状態のまま出版されています。
手記を読んで、モハメドゥの文章にあるウィットや詩のような美しさや英知に驚き、彼のストーリーに心を動かされた製作のロイド・レヴィンたちが、手記のオプション権を獲得し、製作を決めたのは、まだモハメドゥがグアンタナモに収容中のことでした。何らかの罪で起訴されることなく、2016 年 10月 16 日にようやく釈放されました。拘禁は 14 年 2 か月にも及びました。
悪名高きグアンタナモ収容所には、少なくとも 15 人の子どもを含む約 780 人が各地から連行され、司法手続きなしに厳しい尋問や拷問、長期拘禁を強いられています。国際社会や人権団体からの非難が相次ぎ、2009 年オバマ政権が閉鎖を表明しましたが、いまだに閉鎖されていません。

映画の中で、モハメドゥの「アメリカは正義の国と信じていたのに、恐怖で支配するとは思っていなかった」とう言葉が、まさにそうだ!と胸に響きました。(正確にいえば、「アメリカは正義をふりかざす国と思っていたのに」が、私の気持ちですが)
冒頭、モーリタニアの大きなテントの中で結婚を祝う宴が開かれている最中、モハメドゥは母たちが心配する中、突然連行されます。9・11同時多発事件後の「テロとの戦い」のもと、グアンタナモに収容された780人だけでなく、世界で多くの人たちが、いわれなき罪に問われ、このように家族との平穏な日々を壊されたことに思いが至りました。拘束されないまでも、イスラーム圏の出身者というだけで監視されたり偏見の目で見られることは欧米だけでなく、日本でも聞きます。

モハメドゥは、あれほどまで長年にわたり自由を奪われ屈辱的な拷問も受けたのに、「私は許そうと思う。それが私の神の教えだから」と語ります。映画の最後に、モハメドゥ本人が釈放されて、故国で大勢に出迎えられ、目を輝かせている姿が映し出されます。タハール・ラヒムが、限りなく本人の雰囲気に近づけて演じていたのを感じました。

ちょうど、この映画の紹介記事を書こうと思っていた矢先に、友人でエッセイスト・写真家の加藤智津子さんから、『モーリタニアン 黒塗りの記録』についてお便りをいただきました。何度もモーリタニアに通っていて、日本モーリタニア友好協会の理事でもある加藤さん。映画を未見の立場で書かれていますが、とても参考になります。映画の中で映し出された美しいモーリタニアの風景をもっと味わえるブログです。
https://www.chizukokato.com/blog

このブログの中で、映画の最後に出てきたモハメドゥ本人が帰国した時の映像が含まれた「Guardian」が制作したドキュメンタリー(22分)もご紹介されています。
「My Brother’s Keeper: a former Guantánamo detainee, his guard and their unlikely friendship」
https://www.youtube.com/watch?v=IH-h3h22Hck
最後に会ってから13年後、元看守のひとりである Steve Wood がモーリタニアまで会いにきます。Steve は、イスラームに改宗していて、モハメドゥと並んで祈る姿にじ~んとさせられました。 (咲)



2021 年/イギリス/英語・アラビア語・フランス語/129 分/ドルビーデジタル/カラー/スコープ
字幕翻訳:櫻田美樹
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
© 2020 EROS INTERNATIONAL, PLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:https://kuronuri-movie.com/
★2021年10 月 29 日(金) TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー



posted by sakiko at 19:50| Comment(0) | イギリス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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