2021年09月17日

空白

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監督・脚本:𠮷田恵輔
企画・製作・エグゼクティブプロデューサー:河村光庸
撮影:志田貴之
音楽:世武裕子
出演:古田新太(添田充)、松坂桃李(青柳直人)、田畑智子(松本翔子)、藤原季節(野木龍馬)、趣里(今井若菜)、伊東蒼(添田花音)、片岡礼子(中山緑)、寺島しのぶ(草加部麻子)

中学生の添田花音が車に轢かれて死んでしまった。スーパーで化粧品を万引きしようとしたところを店長の青柳直人に見つかり、追いかけられて逃げた挙句道路に飛び出してしまったのだ。妻と離婚後、いつも花音を放たらかしだった父親の充は、突然の娘の死が信じられない。いじめではないかと学校へ乗り込み、自分の娘が万引きなどするはずがないと主張し、店長の直人を激しく追及し続ける。先代の店長のころからスーパーで働いている麻子は、直人をかばって応援する。充の怒りは収まらず、テレビの取材ではコメントを切り取られ、直人の心は折れていく。

これまでの𠮷田監督の作品を観続けています。他人や友人、兄弟姉妹などの関係、その中での加害や被害、善や悪を描いてきました。『ヒメアノ~ル』での狂気の森田剛さんに震えましたが、この突然娘を亡くした父親役の古田新太さんも怖い。いくら謝っても許してもらえません。毎日のように追いかけまわされ、罵倒されたら病んで心が壊れてしまいます。スーパーを継いだごく普通の青年を松坂桃李。しばしばスターのオーラを消して市井の一人になる俳優さんですが、今回も添田に攻撃されっぱなしの直人を演じて違和感ありません。あまりに儚げなので、つい心が動いてしまう麻子の気持ちもわかろうというもの。
娘のことを知らないというのは、添田自身が一番よくわかっているので、自分に怒り、学校へ乗り込み、目の前にいる青柳直人に怒りを集中させてしまいます。そんな添田に元妻は前には飲み込んだことを言い、若い漁師・龍馬は八つ当たりされながらも憎むことはしません。藤原季節さんは柳に風のような役がよく似合います。
𠮷田監督の作品のどの人間にも光と影があり、どん底へ落ちようと、這い上がるとっかかりがあります。観るほうも追い詰められますが息をさせてもらえます。
10月28日から始まる第34回東京国際映画祭にて、Nippon Cinema Now部門「𠮷田恵輔監督」特集が決定しました。こちらです。この『空白』のほか、旧作が上映され監督も登壇する予定。ぜひお楽しみに。(白)


私は、(白)さんと違って、𠮷田恵輔監督作品を観たのは、今年4月9日に公開された『BLUE/ブルー』が初めてでした。
登場人物それぞれの心情を丁寧に描いていて、じんわりと心に染み込む映画でした。
この『空白』も、突然、娘を失った父親の行き場のない思い、万引きに悩まされていた店主にとっては、自分が追いかけたせいだという自責の念、そして言われなき周りからの罵倒・・・ それぞれの押しつぶされそうな気持ちが、ずっしり伝わってきました。
本作の企画・製作に当たった河村光庸氏は、英語タイトルを『Intolerance(不寛容)』としたけれど、果たして、今のこの時代を「不寛容」という言葉で言い表せるのでしょうか?とも自問されています。“生きづらさ”や“閉塞感”とも違う「空っぽ=空白」な時代を生きているのではないでしょうか?と。 生きていれば、必ずいつか、空白を埋めることができると信じて前を向いていきたいものです。(咲)



2021年/日本/カラー/ビスタ/107分
配給:スターサンズ/KADOKAWA
(C)2021「空白」製作委員会
https://kuhaku-movie.com/
★2021年9月23日(木・祝)全国公開

posted by shiraishi at 11:10| Comment(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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