2021年09月03日

ミッドナイト・トラベラー  原題:Midnight Traveler

midnaight.jpeg

監督:ハッサン・ファジリ
出演:ナルギス・ファジリ、ザフラ・ファジリ、ファティマ・フサイニ、ハッサン・ファジリ
プロデューサー:エムリー・マフダヴィアン、スー・キム
共同プロデューサー:ファティマ・フサイニ、アフマド・イマミ
脚本・編集:エムリー・マフダヴィアン
撮影:ナルギス・ファジリ、ザフラ・ファジリ、ファティマ・フサイニ、ハッサン・ファジリ
音楽:グレッチェン・ジュード

アフガニスタンから逃れて5600km
タリバンに死刑宣告を受けた監督一家の長い旅


ハサン・ファジリ監督は、2015年に国営放送のために元タリバンで武器を捨てた平和主義者の男のドキュメンタリー「Peace in Afghanistan」を制作。タリバンの怒りを買い、出演者が殺される。監督も命を狙われていると知り、亡命を決意。妻と二人の娘を連れ、国境を越え、イランへ。そこからトルコ、ブルガリア、セルビア、ハンガリーと、アフガニスタンを出て3年目、ようやくEUに入ることを認められる・・・

冒頭、本作は携帯電話3台で撮影したと掲げられます。国を出る決意をした時には、安住の地を見つけられるまで、どれ程の時間がかかるか全くの未知数。密航斡旋業者に騙されることは日常茶飯事。娘を見失って暗澹たる思いになった日々もあります。一家のリアルな記録からは、国や場所による難民への対応の違いも見て取れます。

映画のタイトル『ミッドナイト・トラベラー』は、映画の冒頭で長女のナルギスが読んでいる本「エゴ・モンスター」の巻の名前から取ったもの。著者サイード・バホダイン・マジローは、政治家、民族誌学者、作家であり、暗殺されるまでの晩年を難民として暮らしたアフガニスタンの知識人です。
監督一家は、ダリ語、それもペルシア語に近い訛りのない綺麗なダリ語を話していて、知識人だとわかります。パシュトゥン族が主のタリバンとは民族も言葉も違います。国境を越える時に、ほかの男たちの中に溶け込むようにシャルワール・カミーズを着た監督に、娘たちが「パパの服、タリバンみたいで嫌い」という場面があります。その娘たちもまた、目立たないようにブルカですっぽり全身を覆うことになるのですが。

本作の製作をプロデューサー・脚本・編集として支えたエムリー・マフダヴィアンは、ペルシア語話者で、中央アジアの映画とメディアに関する博士号を持つ方。パソコンを持ち出せなかったファジリ監督から、撮影映像を記録したSDカードを各国協力者経由、アメリカにいるエムリーに届いたのを確認し、メモリーを消去して撮影を続けるという綱渡りで本作は出来あがりました。

ジャパンプレミアとして上映されたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019で、審査員特別賞を受賞しましたが、ハサン・ファジリ監督はドイツで難民申請が受理され手続き中で出国できず、来日が叶いませんでした。その後、ドイツの永住許可を得たとのこと。
一家そろってドイツに到達し、永住権まで得ることができたのは、ほんとうに幸運なケースだと思います。移動途中で命を落としたり、家族が離散したりすることも多々あるでしょう。危険を冒してまで、故国を離れなければいけない人たちが世界の各地で後を絶たないことに胸が痛みます。誰しも、難民などと呼ばれたくないはずです。日本での公開を前にハッサン・ファジリ監督から届いたメッセージが、心に響きます。

★ハッサン・ファジリ監督から届いたメッセージ★
「私たちも母国を出たいわけでも、捨てたいわけでもない。
私たち、難民はいつも厄介者のような目でみられてしまう。しかし、私たちも人間です。
悲しみも、喜びも、希望もある。
私たちは食事のため、水のために、難民になっているわけではない。
望んで今の状態にあるわけではなく、私たちは仕方がなく、難民になってしまった。
本来は私たちも、アナタたちと同じような普通の人間なんです。
難民もひとりの人間。私たちの痛みも苦しみも理解をしてほしい。」


本作の公開日は、2001年9月11日の同時多発テロから20年に当たる日であり、アメリカ軍完全撤退の期限である日と、かなり以前に決められたのですが、アメリカ軍撤退に伴うタリバン勢力の拡大は予想以上に早く、8月16日に首都カーブルを制圧してしまいました。武力で民主主義を植え付けようとしたアメリカが出ていくことは歓迎ですが、今回もまた、土足でよその国に上がり込んで、後のことを考えず撤退することに憤りを感じます。部族社会の根強いアフガニスタン。女性隔離の慣習を持つパシュトゥンが国家権力を握ると、女性にとって、また暗黒の時代が訪れるのではないかと懸念します。さらなる難民が増えないことを願うばかりです。(咲)


この作品を初めて観たのは2019年の山形国際ドキュメンタリー映画祭。そしてこの作品は「優秀賞」を受賞した。しかし、映画祭へのハッサン・ファジリ監督の参加はなかった。監督と家族はまだ、ドイツの永住許可を獲得できてなくて、海外への移動はまだできなかったのだ。
しかし、この映画を2年前に観た時と今はアフガニスタンの状況が変わってしまった。2年前はタリバンがまさか復権するとは思ってもみなかったのに、この8月にアフガニスタンはまたタリバンに支配されてしまった。この国はイスラムの教義とか聖戦とかいう前に、男たちの権力争い、勢力争いに振り回され、力による支配が続いている。これまでの政権はアメリカの傀儡政権だったのだろうし、世界からの支援も、結局利権を獲得した層だけが得をしていたのだろうけど、それでも女性にとっては、タリバンの時代より暮らしやすかっただろう。しかし、またタリバンが支配することになってどうなってしまうのだろう。以前のタリバンの時代よりは女性の人権を考えると言っているらしいが、それにしたってたかが知れていると思う。
監督の家族たちは、約3年の月日を経てドイツの永住権を得た。しかし、ハッサン監督が「母国を出たいわけでも、捨てたいわけでもない。望んで今の状態にあるわけではなく、私たちは仕方がなく難民になってしまった」というように好き好んで難民になったわけではない。いつか祖国に帰りたいという気持ちはあるのだろうけど、この状態ではさらに帰りにくくなってしまった。こういう作品を観ると、私たちにできることはと思ってしまう(暁)。


参照
山形国際ドキュメンタリー映画祭2019 授賞式レポート
http://cineja3filmfestival.seesaa.net/article/470947183.html

2019 年/87 分/アメリカ・カタール・カナダ・イギリス/ドキュメンタリー
配給:ユナイテッドピープル
公式サイト:https://unitedpeople.jp/midnight/
★2021年9月11日(土)シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー


◆【緊急開催】アフガニスタンの今とこれから。
REALs理事長 瀬谷ルミ子さんに聞く。
日時:2021年9月7日(火) 19時から20時
場所:オンライン(Zoomミーティング)
主催:ユナイテッドピープル
協力:認定NPO法人REALs
料金:1000円/人
▼詳細・チケット https://peatix.com/event/2894439/view


◆トークイベント
9月11日(土)13:00-上映後、安田純平さん/ジャーナリスト
9月12日(日)13:00-上映後、綿井健陽さん/ジャーナリスト・映画監督
※聞き手、ユナイテッドピープル代表関根健次


posted by sakiko at 03:49| Comment(0) | アメリカ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください