監督・プロデューサー:石川梵
エクゼクティブ・プロデューサー:広井王⼦
撮影:石川梵、⼭本直洋、宮本麗
編集:熱海鋼⼀、簑輪広⼆
録⾳:Jun Amanto
⾳響:帆苅幸雄
⾳楽:⽥⼤致 *はなおと* 歌:森⿇季
インドネシアの東の島にラマレラ村がある。ガスも水道もない素朴な村に1500人が暮らす。火山岩に覆われた土地は作物が育たず、太古さながらのクジラ漁が村の生活を支えていた。年間10頭獲れれば村人全員が生きていけるという。「ラマファ」と呼ばれるクジラの銛打ち漁師たちは最も尊敬される存在だ。彼らは手造りの小さな舟と銛1本で、命を懸けて巨大なマッコウクジラに挑む。
2018年、ラマファのひとりであるベンジャミンが捕鯨中に命を落とした。人々が深い悲しみに暮れる中、舟造りの名人である父イグナシウスは家族の結束の象徴として、伝統の舟を作り直すことを決意。1年後、彼らの舟はまだ見ぬクジラを目指して大海へと漕ぎ出す。
写真家であり映画監督の石川梵監督の2作目のドキュメンタリー。1991年からこの村を取材、過去の貴重な記録とともに2017年から2019年までの3年間に撮影された映像が本作として結実しています。30年の間に世界も村の生活も変わり、伝統的な漁だけでは暮らしがたちいかなくなっています。石川監督はいつ来るかわからないクジラを待ち、最初のクジラ漁を撮影するまでに4年かかっています。海の上での人間とクジラの闘いは写し取ったものの、何かが足りない。それがクジラの心だと、今度は水中撮影を試みます。よく無事に戻ったこと!また3年。成功した日は大漁でしたが、一人が大怪我をします。漁は命がけなのです。そこまでは2011年発行の新書「鯨人」に書かれています。当時の貴重な映像に、その後のラマレラ村の人々の映像を加えて丁寧に見せているのが本作。新しく作り直された船はクジラに逢えるのでしょうか?
潮風に焼かれたラマファたちの精悍な表情、男たちを支えて働く女たち。屈託ない子供たちの笑顔にラプラック村のアシュバドルやプナムを思い出します。ドキュメンタリーには珍しく、シネコンでの上映です。大きな画面で雄大な海とクジラ漁に出会ってください。
ネパール地震後のラプラック村を撮影した前作『世界でいちばん美しい村』(2017)石川梵監督のインタビュー記事はこちら。(白)
石川梵監督は、映画を撮る前から写真家として素晴らしい写真を撮ってきた。じっくり被写体と向き合い、長い年月をかけて撮ってきた。このラマレラ村のクジラ漁にしても30年近い取材を行うことで村人にとけ込み、彼らの自然な姿を捉えている。
精霊とともに生きる村人たちは「雨ごい」のように、クジラがこの島にやってくるようにと「クジラごい」をする。そして20人くらいしか乗れないような小舟で海に漕ぎ出す。もちろん島人たちはクジラばかりでなく、マンタやサメ、トビウオなども捕る。でも村人たちが生きていくためにはクジラを年に10頭くらいは捕らないと生活していけないらしい。そして島人たちはクジラ漁に出る。そこには漁師を目指す10歳くらいの少年も。村の男たち総出の漁へのデビュー。でも船酔いしてしまったのがなんだか気の毒でもあり可愛かった。
30年の間にカメラの技術は進歩しドローンも出現。この作品ではドローンを結構使っていたけど、海の綺麗さ、クジラたちの動き、島人たちの舟団の姿、配置。動きなども撮影されている。それが作品に躍動感を与えている。舟も手ごきではなく、エンジンで動くものがほとんどに。それでも銛を打ち込む時の躍動感や危険性は変わらない。そういう緊迫感ある漁の光景がたくさん出て来る。
そしてカメラはじっくりと人々の生活を捉える。捕らえた魚たちを捌くシーンは何回も出てきた。クジラを捌くシーンは、対象が大きいだけに圧倒的。取れたクジラの肉や油は、村人で分け合うし、あますところなく全部使うという。
週に1回の市で山の幸と海の幸が交換されたり、教会に通う人々の姿も。90%以上がキリスト教徒だという。こんな離島にまでキリスト教布教に行った人がいたということに驚いた。そして人々は漁を始める前に舟の上で、命をもらう魚たちのために十字を切る。
新しい舟を作るシーンや伝統的な舟の作り方を学ぶ姿も映している。
ベンジャミンが亡くなって1年。あかりを灯したたくさんの紙の舟たち。それはまるで灯篭流しのようだった(暁)。
石川梵監督著作
☆「鯨人 」(集英社新書) 2011/2/17発行
☆「くじらの子」(少年写真新聞社 写真絵本) 2021/5/28発行
2021年/日本/カラー/ビスタ/113分
配給:アンプラグド 配給協力:アスミック・エース
(C)Bon Ishikawa
https://lastwhaler.com/
https://www.instagram.com/kujirabito1/
★2021年9月3日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
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