(C)2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会
監督:濱口竜介
脚本:濱口竜介 大江崇允
音楽:石橋英子
原作:村上春樹「ドライブ・マイ・カー」(短編小説集「女のいない男たち」所収/文春文庫刊)
出演:
西島秀俊
三浦透子 霧島れいか
パク・ユリム ジン・デヨン ソニア・ユアン ペリー・ディゾン アン・フィテ 安部聡子
岡田将生
舞台俳優で演出家の家福(西島秀俊)と、妻で脚本家の音(霧島れいか)はお互いを補完しあいながら満ち足りた日々を送っていた。ウラジオストクの演劇祭に招聘された家福は成田空港に向かうが、フライトが欠航になり自宅に引き返す。音が男と寝ているのを目撃してしまい、そっと家を後にする。
ある日、出がけに音が「今晩帰ったら話したいことがあるの」という。帰宅すると、音は帰らぬ人になっていた。彼女は何を話したかったのか・・・
それから2年後、家福は広島国際演劇祭から、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」の演出を依頼され、東京から広島に向けて愛車サーブを走らせる。音の生前から準備していた企画で、音は「ワーニャ伯父さん」の練習用に台詞をカセットテープに吹き込んでくれていた。車を走らせながら、カセットを聴きながら台詞を覚えるのが家福のスタイルなのだ。広島での宿も、そのために1時間程離れたところに取ってもらっている。だが、広島に着くと、安全のため、車は自分で運転しないよう、専属ドライバーに依頼していると、渡利みさき(三浦透子)を紹介される。みさきの運転で往復する日々。寡黙なみさきだが、やがてお互いの過去を明かし、家福はそれまで目を背けてきたあることに気づかされていく・・・
村上春樹の妻を失った男の喪失と希望を綴った短編「ドライブ・マイ・カー」に惚れ込み映画化を熱望した濱口竜介監督が自ら脚本も手掛けた本作。カンヌ国際映画祭で日本映画としては史上初となる脚本賞を受賞した際のスピーチで、「まずは、原作を書いた村上春樹さんに感謝」と述べていましたが、原作のエッセンスを失わないように気遣いながら、大きく膨らませた物語になっています。
『ハッピーアワー』(2015年)の317分には、遠く及びませんが、179分という長尺。覚悟して観たのですが、思いのほか長く感じませんでした。大好きな西島秀俊さんが、ほぼ出ずっぱりということもありますが、それだけではない不思議。
不思議といえば、劇中劇「ワーニャ伯父さん」には、韓国・台湾・フィリピン・インドネシア・ドイツ・マレーシアからオーディションで選ばれた海外キャストが参加していて、それぞれが自国語で台詞を語るのです。通訳を介さず、話は続いていきます。
グローバルなのは劇中劇だけでなく、映画の最後は、韓国。いろいろな余韻を残してくれる作品です。(咲)
カンヌ映画祭で4冠!のニュースを聞いて以来、原作も「ワーニャ伯父さん」も読み、作品を観られるのを楽しみにしていました。愛妻の浮気を知りながら追求もしない家福は大人なのか、臆病なのか? 演じるのはいつも端正なたたずまいの西島秀俊さん。反対に思ったままに話し、動くのが高槻(岡田将生)です。この2人が妻の死の2年後「ワーニャ伯父さん」で再会、演出家対俳優の静かなバトルを開始します。寡黙なドライバーのみさき(三浦透子)は、若いのに何を経験してきたの?と勘繰りたくなる落ち着きようで、只者ではない感ありありです。各地の風景とそれぞれの登場人物の心情を追っているうちに3時間は過ぎていました。
本読みで、家福が感情を入れないように指導する場面が興味深かったのですが、これは濱口竜介監督の演出方法なのだと知って「へぇー」。ためて発酵させて本番で一気に出るのでしょうか?自分の台詞に感情を入れないで繰り返すことで、全体の流れとほかの台詞も頭に入ります。
劇中劇の多言語の台詞にもまた「ほぉー」と感心しきりでしたが、韓国手話の動きや表情に見とれました。原作は短いのに、これだけの長尺の作品にできる濱口監督の手腕と、その演出にしっかりとくらいついていく俳優陣の力が織りなした作品でした。(白)
2021年/日本/179分
配給:ビターズ・エンド
公式サイト:http://dmc.bitters.co.jp/
★2021年8月20日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開