2021年08月06日

ジュゼップ 戦場の画家  原題:JOSEP

スペイン内戦に翻弄された画家ジュゼップ・バルトリ
亡命先のメキシコでフリーダ・カーロの愛人に


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監督:オーレル
脚本:ジャン=ルイ・ミレシ (『幼なじみ』、『キリマンジャロの雪』)

病床のセルジュは一枚の絵を手にして、孫ヴァランタンに憲兵をしていた若かりし頃の思い出を語り始める・・・
1939年2月、スペイン内戦の戦火を逃れ、大勢の難民がピレネー山脈を越えてフランスに押し寄せた。だが、彼らはフランス政府によって強制的に収容所に閉じ込められ、劣悪な環境に苦しむことになった。監視役のフランス人憲兵たちは難民を蔑み、ことあるごとに虐待していた。
難民の中に、建物の壁や地面に黙々と絵を描き続けるジュゼップ・バルトリという画家がいた。新米の憲兵セルジュは、先輩の憲兵たちの目を盗み、ジュゼップにそっと鉛筆と紙を手渡し、いつしか二人の間には友情が芽生えていった。セルジュは、ジュゼップがスペインを脱出する時に、婚約者マリアと離れ離れになったと知り、マリアの行方を捜す。とある病院船で療養中のマリアと思われる女性にジュゼップを引き合わせるが、一瞥して別人とわかり、ジュゼップは海に飛び込み、そのまま姿をくらましてしまう。やがて、フランスとドイツの戦争が勃発。レジスタンスとして活動し囚われの身となったジュゼップと再会したセルジュは、彼の逃亡を助ける。数カ月後、亡命先のメキシコから、画家フリーダ・カーロと親密になったとのジュゼップの手紙を受け取ったセルジュは、メキシコの彼のもとに旅立つ・・・

フランスの全国紙ル・モンドなどのイラストレーターとして活躍してきたオーレルの長編監督デビュー作。
画家ジュゼップ・バルトリは、1910年、スペイン・バルセロナ生まれ。スペイン内戦時代に共和国軍の一員としてフランコの反乱軍に抵抗。1939年、避難先のフランスの強制収容所で想像を絶する過酷な難民生活を経験。収容所からの脱走を繰り返したのち、1942年にメキシコへの亡命に成功し、フリーダ・カーロの愛人に。1945年にニューヨークへ拠点を移し、マーク・ロスコ、ジャクソン・ポロックらと交流を持ち、画家としての名声を確立。
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(C)Les Films d'Ici Mediterranee - France 3 Cinema - Imagic Telecom - Les Films du Poisson Rouge - Lunanime - Promenons nous-dans les bois - Tchack - Les Fees Speciales - In Efecto - Le Mémorial du Camp de Rivesaltes - Les Films d'Ici - Upside Films 2020
オーレル監督は、ジュゼップの残した鮮烈な絵画の数々に触発され、命を懸けて闘ったレジスタンスの活動家の波乱万丈の人生をアニメーションで描いています。
フランスの強制収容所での過酷な待遇には涙が出る思いでしたが、メキシコで恋多き画家フリーダ・カーロ(1907-1954)と親しい関係だったことには、ちょっとほっとさせられました。
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(C)Les Films d'Ici Mediterranee - France 3 Cinema - Imagic Telecom - Les Films du Poisson Rouge - Lunanime - Promenons nous-dans les bois - Tchack - Les Fees Speciales - In Efecto - Le Mémorial du Camp de Rivesaltes - Les Films d'Ici - Upside Films 2020
フリーダ・カーロは、1936年7月にスペインで内戦が勃発後、共和国側を支援するために同調者を募り、連帯委員会を創設して政治活動にのめり込むほどだったので、共和派の画家ジュゼップとは自然に意気投合したのでしょう。

『フリーダ・カーロの遺品 石内都、織るように』(2015年、監督・撮影:小谷忠典)
『フリーダ・カーロに魅せられて』(2020年、 監督:アリ・レイ)

フランコ将軍の台頭で祖国を捨てるしかなかった共和派の人たち。ヨーロッパ各国が受け入れを拒む中、手を差し伸べたのが当時のメキシコ大統領だったことを知ったのは、映画『メキシカン・スーツケース』(2011年、監督・脚本:トリーシャ・ジフ)を通じてのことでした。実に20万人ものスペイン人の亡命希望者を受け入れたとのことで驚かされました。

本作は、祖父が強制収容所で憲兵として経験したことを、孫に語る形で綴られていて、今もなお、世界の各地で故国を去り難民とならざるをえない人たちに思いを馳せてほしいという監督の願いを感じました。そして、剣ではなく、ペンで抗うことができることも教えてくれました。(咲)


3月の東京アニメアワードフェスティバルでひとあし先に鑑賞していました。力作が並ぶコンペの中で、一見地味な作風のこの作品が一番残りました。実際に難民収容所でジュゼップ・バルトリが描いた絵を元にして、その絵が指先から立ち現れる様子、描かれた人々が動き出すのもアニメーションで表現されています。ちょっとでも絵を描く人は見入ってしまうはず。過酷な収容所の様子に胸を痛めるのはもちろんですが、導入部の現代の話にもぐっとつかまれます。
物忘れが始まったらしいセルジュを娘と孫が訪ね、これまで知らなかった祖父の過去に孫がすこしずつ引き込まれていきます。この布石があった上のラストシーンがじんわり胸にしみこんできました。(白)


第46回セザール賞・長編アニメーション賞、第 26 回リュミエール賞・アニメーション賞&音楽賞、
第 33 回ヨーロッパ映画賞長編アニメーション賞
東京アニメアワードフェスティバル2021・グランプリ&東京都知事賞

2020年/フランス・スペイン・ベルギー/フランス語・カタロニア語・スペイン語・英語/74分/シネマスコープ/カラー/5.1ch
日本語字幕:橋本裕充
配給:ロングライド
公式サイト:https://longride.jp/josep/
★2021年8月13日(金)、新宿武蔵野館ほか全国順次公開


posted by sakiko at 18:54| Comment(0) | フランス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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