2021年07月25日
名もなき歌(原題:Cancion sin nombre)
監督・脚本・製作:メリーナ・レオン
撮影:インティ・ブリオネス
音楽:パウチ・ササキ
出演:パメラ・メンドーサ(へオルヒナ)、トミー・パラッガ(ペドロ・カンボス)、ルシオ・ロハス(レオ)、マイコル・エルナンデス(イサ)
1988年、政情不安に揺れる南米ペルー。貧しい暮らしを送っている先住民の女性、ヘオルヒナ20歳。結婚して子供が授かったが臨月の今も町に出て野菜を売っている。妊婦を無償でみてくれる財団の存在を知って、リマのクリニックを受診した。陣痛が始まって、やっとクリニックに到着したヘオルヒナは無事に女児を出産する。子どもを見せてほしいのに、看護師にゆっくり休めと言われる。目がさめると赤ん坊をほかに移したと言われ、一度も我が子に会えないまま締め出されてしまった。再び訪ねるとクリニックはもぬけの殻で、警察や裁判所に訴えても有権者番号を持たない夫婦はとりあってもらえない。新聞記者のペドロは、新聞社に押しかけ泣きながら窮状を訴えるヘオルヒナに事情を尋ねる。
ペルーの女性監督メリーナ・レオンの長編デビュー作。カンヌ映画祭監督週間で上映されたほか、アカデミー賞の国際長編映画賞に向けたペルー代表作品に選出されました。
テレビのような画角の白黒の画面に、荒涼とした風景が映っています。画面を横切る線上に小さな人影が現れ、粗末な家に入っていきます。祖先の開いた土地を代々守ってきた原住民を追いやる政治、ここペルーだけの話ではありません。人種により差別し、人間としての尊厳を認めない過酷な現実も世界中のあちこちで観られます。
この映画は弱い立場のものが虐げられていた事実を元に作られた作品です。ヘオルヒナを演じたパメラ・メンドーサはこれが初めての映画出演。寡黙でひたむきな若い母親を体現しています。ここにあるように我が子を取り上げられた母親たち、現実を変えようとテロに走った若者たちがどれだけいたことでしょう。
美しくも厳しい画面の中に、絶望する母親と、使命感に燃えながらあまりにも大きな壁に苦悩するペドロの表情が映し出されます。ペドロにも同性愛者というマイノリティのくびきがかけられています。30年余りたった今、差別や貧困が蔓延する社会がどこまで変わったのか、変えることができたのか、問わずにいられません。(白)
2019年/ペルー、スペイン、アメリカ合作/モノクロ/スタンダード/97分
配給:アークフィルムズ
(C)Luxbox-Cancion Sin Nombre
http://namonaki.arc-films.co.jp/
★2021年7月31日(土)ユーロスペース、伏見ミリオン座ほか全国順次公開
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください